faro_01(写真)「お米とパプリカのミルフィーユ」。

「ファロ」エグゼクティヴ・シェフ能田耕太郎さんは、イタリアと日本両国で活躍する料理人だ。イタリアの首都ローマにある「ビストロ64」は能田シェフがオーナーシェフを務めるレストランだが、2017年以来4年連続でミシュラン1つ星を維持。 個人としては通算二度目の1つ星獲得で、これはイタリアにおける日本人史上初めて。その能田シェフが2018年に銀座資生堂ビル10階「ファロ」エグゼクティヴ・シェフに就任するという話は、イタリア本国のフードメディアでも大いに話題になったのだ。「ファロ」における能田シェフは日本の食材にイタリア料理の技術やコンセプトを加えたイノベーティブ料理で新たな境地を切り開いている。その中でも就任以来積極的に取り組んでいるのが、動物性食材を一切使わないヴィーガン・メニューだ。



能田氏が提唱するイノベーティブなガストロノミー・ヴィーガン。

faro_02(写真)「ファロ」エグゼクティヴ・シェフ能田耕太郎氏。
ヴィーガンは欧米では食の嗜好を超えた倫理的規範として定着しているが、日本ではまだまだトップレストランでメニューに組み込んでいるところは少ない。外国からのゲストが「ヴィーガン料理を食べたい」といわれて店選びに困る、という話も時折耳にするが、能田シェフが提唱しているのは厳格なエシカル・ヴィーガンではなく、あくまでもガストロノミーな観点でも楽しめるガストロノミー・ヴィーガンなのだ。

一方フランチャコルタとは北イタリア、イゼオ湖周辺で生産されるプレミアム・スパークリングワインで、瓶内二次発行(メトド・クラッシコ)で作られる。イタリアのワインカテゴリーでは最上位に位置するDOCGで現在116のワイナリーが協会に加盟している。その評価は年々高まる一方で、特に日本においてはここ数年飛躍的に消費も評価も上昇しており、現地ではブドウ栽培やワイン製造においてもビオ、あるいはヴィーガンを志向する作り手が増えている。そのような時代背景もあり、今回能田シェフはヴィーガン・メニューのパートナーにフランチャコルタを選んだ。4品からなるヴィーガン・ショートコース(前菜、パスタ、メイン、デザート)に4種類のフランチャコルタのグラスペアリングが楽しめる期間限定メニューを発表した。

期間中にはレストラン内にフランチャコルタ・ポップアップバーが特設され4種類のフランチャコルタがフリーフローで楽しめるという、スパークリング好きにはなんとも魅力的なサプライズ。ポップアッブバーではフランチャコルタとともに能田シェフによる限定フィンガーフードも楽しめる。内容は日替わりなので全て能田シェフにおまかせだが、実はフィンガーフードの枠を超えたイノベーティブ・ストゥッツィッキーノ(イタリア語でアミューズ)だ。

フランチャコルタとヴィーガン・コースの華麗なペアリング。

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例えば皿上の緑色のフィンガーフード(写真左)は、豆のペーストにバジリコオイルで風味をつけてゼリーがけし、マリネしたバジリコの葉をあしらったもの。豊かなバジリコの風味は確かにイタリアの香りだ。奥にあるのは赤ピーマンの粉末を練りこんだビーガン・タルトで、フィリングはヘーゼルナッツのペースト。軽く発酵させ水分を抜いたナスをマリネしてトッピングしてある。添えられているのは万願寺とうがらしを使ったグラス入りガスパチョ。ヴィーガン・メニューなのでも当然乳製品も肉も魚も一切使用していない。野菜だけで満足してもらうため、意識的にコクを引き出しているという。能田シェフ渾身のフィンガーフードの内容は常に変わるので、何が出るかは当日の楽しみということだ。

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「ズッキーニのリゾット」(写真右)。緑ズッキーニとミントのリゾットは、自家製の赤大豆味噌を隠し味に使ってある。できたての熱いリゾットには、なんとも美しい黄色ズッキーニのピューレを凍らせたディスクが乗せてある。つまりズッキーニのシャーベットで、リゾットの熱で溶けたところをソース代わりにして混ぜて食べる。様々なズッキーニの味と香りとテクスチャー、そしてミントが味を引き締めてくれる。

「ジャガイモのスパゲッティ」(写真下)。これは「ファロ」就任以来能田シェフのシグネチャーディッシュ。かつて師事したイタリアの3つ星シェフ、エンリコ・クリッパがこれを食べて「進歩したな」と認めたという有名なパスタのヴィーガン・バージョンだ。
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これはジャガイモを極細の千切りにしてスパゲッティに見立ててあり、本来はアンチョビとバターをソースとして使う。今回は、動物性食材は一切取り除き、植物由来の素材とスパイス、ハーブでほんのり甘くライトな風味に仕立てている。シャキシャキした食感は確かにパスタを思わせ、なによりクリーミーなソースがジャガイモととてもよくマッチ。動物性ゼロでもしっかりとした味を組み立てるところはさすが。

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「お米とパプリカのミルフィーユ」(写真上)。メイン料理はパプリカが主役だ。赤と黄色はパプリカのソース、緑はローズマリー・オイル。リゾット用のイタリア米カルナローリをチップスに仕立て、スモークしたパプリカ・パウダーをアクセントにし、炭火で焼いたパプリカをオリーブオイル、塩、パセリで和えたものと重ねてミルフィーユ状態にしてある。香ばしいパプリカが南イタリア、カラブリアを思わせ、一方クリスピーな米のチップスは北イタリアの味。

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「山口農園の花のタルト」(写真上)。花とハーブと野草をふんだんに使ったタルトはファロのパティシエ、加藤峰子さんのシグネチャー・ドルチェ。加藤さんはイタリアの「オステリア・フランチェスカーナ」でも活躍したパティシエで、彼女が作る花のタルトはテーブル上に咲いた小さなハーブガーデンのような美しさ。野草は山にひっそりと自生している在来種を20種類以上使い、そこにイタリアのハーブなどを組み合わせている。花の下には実はタルト生地がしのばせてあり、本来は自家製のマスカルポーネにメープルシロップを合わせたクリームを使うのだが、今回はお米を煮詰めてクリームにしてある。複雑なその香りに加えタルト生地の甘みと食感、滑らかなクリーム。このタルトを食べるのも「ファロ」に来る喜びのひとつ。

ファロソムリエのセレクトによる4種類のフランチャコルタ。

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このヴィーガン・メニューにあわせる4種類のフランチャコルタは左からFerghettina Rose(フェルゲッティーナ ロゼ), Villa Crespi Cisiolo Dasaggio Zero(ヴィッラ クレスピア チヂオーロ ドサッジョ ゼロ), Enrico Gatti Saten(エンリコ ガッティ サテン), Ca’ del Bosco Anna Maria Clementi Brut(カ デル ボスコ アンナ マリア クレメンティ ブリュット)。イタリアでもファッション・イベントやパーティなどで登場するスパークリングワインは必ずといっていいほどフランチャコルタ。セパージュもピノ・ネロ(ピノ・ノワール)とシャルドネをベースにしており、白ぶどうのみで作るサテン(ブラン・ド・ブラン)なども生産していることから、シャンパーニュに比肩しうる数少ないイタリアワインといっていいだろう。食に関する意識が高い人はライフスタイルについても意識が高く、イタリアでは自然とフランチャコルタを選ぶ傾向にあるようだ。日本とイタリアで活躍する能田シェフが作るヴィーガン・メニューとフランチャコルタのコラボ・メニュー、この秋試してみたいペアリングのひとつだ。

Photo&Text Masakatsu Ikeda




restaurant information


faro_08 FARO ファロ
住所:東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル10階
Tel:0120-862-150 / 03-3572-3911
電話予約受付時間:11:00〜22:00(営業日のみ)
営業時間:12:00〜13:30L.O.、18:00〜20:30L.O.
定休日:日、月、祝

<フランチャコルタ × ファロ コラボレーション限定ポップアップバー>
~フリーフローでフランチャコルタを楽しむ、贅沢なアペリティーボのひととき~
ヴィーガン・ショートコース 6,000円(税込、サ別)
前菜、パスタ、デザート、メイン メニューの内容は変わる場合があります。
フリーフロー 8,000円(税込、サ別) フィンガーフード付き ディナータイムのみ。
期間:2020年11月19日(水)〜12月18日(金)
※予約は電話にて。料理内容は変更の可能性あり。

profile


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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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