KAORIUM_image
「白バラ」や「チコリ」、そして「野花のじゅうたん」や「青春の甘い誘惑」。ワインの味わいを表す言葉、または小説の一節の表現と思えるこれらの言葉は、なんとAIシステムによって導き出された人が感じる日本酒の香りの表現だ。「人間が味覚を感じるのは、舌だけではなく、言葉もその一つ」として、日本酒の風味を可視化した画期的なAIシステム「KAORIUM for Sake」が発表された。 開発したのは、嗅覚をデジタライゼーションし、新しい五感体験をライフスタイルのさまざまなシーンにおいて活用提案するSCENTMATIC株式会社(セントマティック)。ソムリエでも表現が難しいとされる日本酒の香りを、膨大な文献データの解析によって解明し、それを即時に言語化するAIシステムで、レストランに訪れた人へ新たな飲食体験を創出している史上初の試みだ。そして今回、初の実店舗への導入を発表した。

Prof_Akaboshi”日本酒ソムリエAI”の元になる「KAORIUM」の仕組みはこのようなものだ。世界最高峰の言語エンジンを搭載したAIが、インターネット上の膨大な言語表現と、香りや風味の情報をリンクさせ、即時に言語化。ユーザーの感性データが増えることによって機能はさらに学習進化する。今回発表された「KAORIUM for Sake」は、酒ソムリエとして活躍する日本酒の第一人者赤星慶太さん(写真左)との協力によって、同社が日本酒用に新たにデータ解析のアルゴリズムの基軸をつくり上げたもので、いわば「KAORIUM」の日本酒バージョンとなる。日本酒の風味を「すずしげ」「ふくよか」「あたたかみ」の3要素で、AIが言葉をマッピングして可視化し、レストランのテーブル上に設置したタブレットで表示させる。日本酒メニューのそれぞれの風味や味わいが、ユーザーに直感的に受け取れる情報となってメニュー選びを後押しする新サービスとなっている。

日本酒ソムリエAI「KAORIUM for Sake」が初の店舗導入へ

関係者向けにTRUNK HOTELで開催された体験会では、各自にAIを搭載したタブレットが用意され、日本酒とフードとのペアリングの過程で、香りが可視化される前後の体感の変化を楽しんだ。この日、用意されたのは「獺祭」「伝心」「七田」の3種類。まずはAIに頼らずに、自身で味わいをテイスティング。日本酒をよく飲む筆者でも、瞬間的には甘口や辛口という一般的な用語やフルーティといった、やや曖昧な表現がせいぜいだろうか。一方、AIのタブレットに並ぶのは、例えば「獺祭」には、ネクタリンやマンゴー、白ブドウやライチ、ラムネという自分の感覚外だった言葉も多い。kaorium_for_sake_tablet
(写真)「KAORIUM for Sake」のタブレット上で表示される日本酒メニューの香りを言語化したイメージとフードペアリング提案。各言葉はタップでき、同じキーワードで別メニューが検索できる。

それらを眺めてからもう一度グラスに鼻を近づけると、不思議なことに次々とその言葉を裏付けるようにして、その日本酒が本来持っている香りが発見できるのだ。香りとはそもそもきわめて主観的なものなのだが、例えば自分にとってはビワをより強く感じると思えば、そのひとつの嗜好から、別の香りへの興味や想像力が広がることも面白い体験だ。また、この日本酒AIは文学の言葉を学習しているため、「若葉の煌めき」といった詩的で情緒的な言葉が出てくるところも、飲む人に香りをより立体的に感じさせ、想像の余白を生むいい仕掛けとなっている。

1_n「KAORIUM by Sake」では、日本酒メニューの香りの言語化だけでなくAIによるフードとのペアリング提案もされる。例えば、アーモンドやメロンの風味がある「七田 純米 七割五分磨き 山田錦」。AIによる最高の相性として提案されたのは「白味噌焦がしプリン」。酒とプリンの意外な組み合わせだが、アーモンドのような甘みがある日本酒には、香ばしい焦がしプリンの香りが合い、甘さが増幅される。柑橘の表現が多い「獺祭 純米大吟醸45」には「鯛とオレンジのマリネ」(写真右)を、白菜やチコリの言葉で表現される「伝心 雪 純米吟醸」には「ちくわとチーズのミルフィーユ バジルソースで」が組み合わされる。同じ香りの要素で同調させる、ペアリングの王道の発想方法だが、ペアリングの知識がない人にもそれが直感的に体感できる。同様に自身で気になる酒の香りの言葉を拾いながら、共通の味わいのフードメニューを見つけていくことも可能だろう。AIならではの仕組みとして、タブレット上で言語化された香りをタップすることで、すぐに同じ要素を持つ別のメニューが表示されるようにもなっている。ユーザーの感性で選びだされたメニューや言葉の履歴はビッグデータとしして蓄積されながらシステムに反映され、AIはその日その時のトレンドや人々の感性データを収集し自己学習しながら変化していく。AIが人の感性を紐解き、それを人々にとって有効な形でフィードバックする、そんな次世代の人とAIの共存関係が垣間見えるような新感覚体験だった。

日本酒の専門知識がなくても、自分主体で好みの日本酒が選べる、見つかるという楽しさは画期的!

Prof_Kurisu「言葉から日本酒を選ぶというのは新しい利酒体験になる。日本酒は約1万銘柄あると言われているが、認知されているのは0.1%程度。香りを記憶することによって、日本酒を主体的に選べるようになり、楽しみ方が拡がると思う」とSCENTMATIC代表取締役の栗栖俊治氏(写真左)。香りを言語で認識することは、その味わいを鮮明に記憶することにつながる。香りに意識的になることで、ソムリエのように知識がなくても、自分で好みの日本酒を自主的に見つけていけるという楽しみ方が広がるだろう。「KAORIUM for Sake 」は今後店舗での導入や、通販キットの販売が予定されている。コロナ禍による非接触の接客が求められる中、日本酒ソムリエAIはその答えの一つにもなりそうだ。AIによって導かれる新しい日本酒の未来に期待したい。


text by Mariko Kojima

information


STM_logo_main_bk KAORIUM とは?
香りの超感覚体験をつくる共創型プロフェッショナル集団「SENTMATIC(セントマティック)」が、見えない香りを言葉で可視化するシステムとして開発した香りと言葉の変換システム「KAORIUM」。世の中に存在するさまざまな香りを「感性言語」に変換し、香りの感じ方をより豊かに広げる共創体験は、教育、ショッピング、エンタメや飲食分野への活用など、今後の社会のさまざまなシーンでの実装が期待がされている。

SENTMATIC(セントマティック)

BAY-ya「KAORIUM for Sake」は日本酒の香りや風味を言葉で巡り、新しい日本酒体験を提供する。日本酒ソムリエAIによる新感覚のサービスは、2020年12月11日にはフードペアリングバー「BAY-ya(ベイヤ)」(横浜、写真右)、2021年1月には日本酒バル「AKAKUMA」(新宿)で導入となり訪れれば誰でも体験できる。タブレット上では、料理3品と日本酒3種の「3種のペアリングコース」(2,280円)など店舗ごとのメニューにカスタマイズされて展開。また2021年春には家庭でも日本酒ソムリエAIを楽しめる「KAORIUM for Sake 日本酒飲み比べ体験したキット」も発売予定。

profile


kojima児島麻理子  hello pr & consulting 主宰

1978年東京生まれ。出版社を経て、2008年から2019年まで洋酒メーカーで広報を担当。 日本テキーラ協会テキーラ・マエストロ、日本ラム協会ラムコンシェルジュ。 現在は独立し、飲食・ライフスタイルの分野でライター、PRコンサルタントとして活動。 Hanako.tokyoで「TOKYO、会いに行きたいバーテンダー」を連載。

≫児島麻理子の「TOKYO、会いに行きたいバーテンダー」