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エスプレッソ王国イタリアではほとんどの人がコーヒー=エスプレッソ党で紅茶や緑茶を飲む人はほとんどいない、そんな先入観にとらわれていないだろうか?確かにバールで飲む淹れたてのエスプレッソは香り高く美味しいが、少々せわしないのもまた事実。 というのもエスプレッソ=特急という名が示すように、小ぶりのエスプレッソは立ち飲みで2口か3口で飲みきり滞在時間もわずか数分、というのが平均的なバールでの過ごし方なのだ。一方ゆったりと過ごしたい時、友人や家族と会話を楽しみたい時はテーブル席で紅茶、というのが一般的なスタイル。というのもテーブル席でエスプレッソ、というのはどうもイタリア人的には落ち着かないスタイルのようなのだ。

そんな時、イタリア人が選ぶのはメイド・イン・イタリーの最高級お茶ブランド「ラ・ヴィア・デル・テ」だ。1961年フィレンツェで創業以来根強い人気を誇り、現在はイタリアのほとんどの5つ星ホテルで使用されており、ヴェネツィアの「カフェ・フローリン」やミラノの「カフェ・コーヴァ」など世界的に有名なカフェでも使用されている。「ラ・ヴィア・デル・テ」とはイタリア語で「茶の道」という意味だがこれはお茶の故郷に敬意を表したもの。ちなみにかつて中国とローマを結んだシルクロードは「ラ・ヴィア・デッラ・セータ」と呼ばれているので、イタリア人にとって「ラ・ヴィア」というのは東方へ向かう旅という、どこかノスタルジックな響きがあるようだ。

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「ラ・ヴィア・デル・テ」を立ち上げたのは当時まだ21才だったフィレンツェ生まれの若者アルフレード・カラーイだ。若くして茶の世界に魅せられたカラーイはその魅力をイタリアにも広めようと事業を立ち上げた。たった一人で中国やスリランカ、インドなどお茶の原産地を訪ね歩いては現地の人々と交渉し、最高級茶葉を手に入れようと奮闘したのだが、いまから60年も前にそうした国々を一人で回る大変さは想像を絶するものがある。それでも理想の茶を訪ねては山から山へ、茶畑から茶畑へと特には国境まで超えて移動したカラーイの執念は実り、ようやく最初の茶の輸入に成功する。当初はパッケージに蛇の絵が描かれていたので「スネーク・ラベル」と呼ばれていたが80年代になると世界各国へ輸出するようになり現在の「ラ・ヴィア・デル・テ」に改名。いまはシルクロードを遡るが如く、日本にも輸入されておりやはり5つ星ホテルを中心に愛用されている。
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「ラ・ヴィア・デル・テ」本社工場はフィレンツェ郊外の緑豊かな環境にある。現在は世界40か国に輸出するイタリアを代表するお茶ブランドとなったが、それでも手作業や家族経営にこだわるのがイタリア人ならでは。現在の「ラ・ヴィア・デル・テ」はアルフレード・カラーイの6人の子供達が跡を継ぎ、力を合わせて運営している。その中心人物がマイスターブレンダーであるアンナだ。
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アンナは世界中から輸入したさまざまなハーブやドライフルーツ、スパイス、ドライフラワーなどを配合し、フレーバーティを生み出す専門家だ。ひとつずつ原材料の香りを記憶しては配合し、毎日さまざまなブレンドをテイスティングし、品質管理の維持に努める。そうした作業はまるで食材を自由自在に組み合わせて新しいレシピを生み出すシェフのようだ。近年ガストロノミーの世界ではノンアルコールドリンクとの料理ペアリングや、ノンアルコールカクテル=モクテルのペアリングが盛んだが「ラ・ヴィア・デル・テ」はそうしたガストロノミーとのペアリングにも積極的に取り組んでいる。中世の貴族の邸宅が立ち並ぶサント・スピリト地区にある「ラ・ヴィア・デル・テ」のティーサロンでは、実際にそうしたお茶を料理や菓子とあわせるティー・ペアリングが体験できるのだ。
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ティーサロンでは250種類以上あるブレンドの全てを注文できるのに加え、「ティータイム」のメニューは「フィレンツェ」「ロンドン」「マラケシュ」「京都」「上海」「マドラス」と、それぞれの都市をイメージしたお茶とケーキ、あるいはサンドイッチやスコーンなどの組み合わせが楽しめる。イタリア版アフタヌーンティー「サンドイッチ&Co.」はミニサンドイッチ3種盛りや高級食材を使ったグルメ・パニーノ3種盛り、さらにキッシュやクスクス、ミニスープなどがスタッフおすすめのお茶とともにテーブルに登場するなんともにぎやかで楽しいアフタヌーンティーのセット。数種類のお茶を注文して料理やフィンガーフードとの相性を楽しむ、というのは知的好奇心を刺激されるなんとも楽しい作業だ。

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また、お茶の楽しみ方をさらに一歩進めたカクテルにも意欲的に取り組んでいる。お茶の軽やかなフレーバーはカクテルのベースとなるジンやラムなどのスピリッツとも好相性。今回試したのはイタリアを代表するアペリティーヴォ=食前酒「スプリッツ」のアレンジでプロセッコ、アペロール、ザガラの花のお茶をあわせた「ザガラ・スプリッツ」。ザガラとはシチリアなど南イタリアに自生するレモンに似た柑橘系の花。そのフレッシュな香りはとても心地よく、カクテルにするととても華やかになる。「ポンテ・ヴェッキオのカイピロスカ」はウォッカ、イチゴのピューレに「ポンテ・ヴェッキオの約束」というお茶をブレンドしたもの。ウォッカの個性を爽やかなフレーバーでまとめ、イチゴの甘みが舌に優しい。「ポンテ・ヴェッキオ」とはフィレンツェ市内を流れるアルノ川にかかる最古の橋のこと。「ヴェッキオ」とは「古い」というイタリア語であり、フィレンツェの人々はこの古い橋を心から愛してやまない。古きをたずねて新しきを知る、「ラ・ヴィア・デル・テ」の哲学が込められているような、そんな至福のカクテル・タイムだった。

Photo&Text Masakatsu Ikeda

shop information


La_Via_del_Te0016 La Via del Te(ラ・ヴィア・デル・テ)

住所:Via di S.Spirito, 11 Firenze
Tel:055-280749
11:00〜20:00 月曜15:30〜20:00(ティーサロンは19:30まで)
※現在はコロナの影響で営業時間はかわることがあります。

「ラ・ヴィア・デル・テ」のお茶は日本国内の高級百貨店などで入手可能。
■お問い合わせ/サンヨーエンタープライズ http://www.sanyo-ep.jp/
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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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