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『search/サーチ』(2018年)の衝撃は忘れられない。2018年サンダンス映画祭でプレミア上映された同作はカテゴリー別での観客賞を受賞。世界興収は7500万ドルを超える成功を収めている。 私は10時間を超える長距離便の機内で、なにげなく見始めたのだが、パソコンの画面の映像だけでストーリーを展開していく斬新なサスペンス・スリラーに、お酒を飲む手が止まるくらい引き込まれた。

『RUN/ラン』は、その『search/サーチ』を手がけた、アニーシュ・チャガンティ監督&製作チームの長編第2作だ。しかし、『RUN/ラン』はそんな前作のファンの思いを小気味よく裏切る。『search/サーチ』の主人公は行方不明になった娘を探すため、SNSや動画サイトなどに絶え間なくアクセスしていた。それとは真逆に、この物語の登場人物は物語の途中から、インターネットに一切接続できない環境に囚われてしまう。

サブ②_R17歳の少女、クロエは慢性の病気を患い、車椅子での生活を余儀なくされている。それでもクロエの心は希望に満ちあふれていた。地元のワシントン大学に進学し、初めて家を出て寮生活を送るための準備を進めており、合格通知が届くのを心待ちにしているのだ。そんなある日、クロエは、唯一の家族であり、自分の体調や食事を管理し、進学の夢も後押ししてくれている母親ダイアンに疑念を抱き始める。ダイアンが新しい薬と称して差し出してきた緑色のカプセルは、実は人間が服用してはならない薬だったのだ。やがてクロエはダイアンの監視下からの脱出を試みるが……。

見どころは尽きないが、ダイアン役のサラ・ポールソンと、クロエ役のキーラ・アレンの演技合戦がとにかくすごい。ストーリー展開はもちろん、ふたりの“女優っぷり”に圧倒される。ポールソンは、2021年のゴールデングローブ賞でも「ラチェッド」(Netfilx)の主演でノミネートされている、近年のスリラー界で圧倒的な存在感を放つ実力派女優だ。表情ひとつでさまざまな感情を表現する。クロエ役のアレンは、本作がデビュー作となる新人俳優だ。車椅子の扱いがやたらにうまいなと思ったところ、私生活でも車椅子ユーザーだと知った。クロエ役のキャスティングにあたり、制作陣が、障害者プログラム、ソーシャルメディアを通して発信したところ、アレンから、コロンビア大学の寮の自室で録画したテープが届いたという。

サブ⑤_R結末を確認したあと、もう一度、観た。すると、初見ではわからなかったいろいろなことが見えてきた。囚われの身であるクロエは囚人服を連想させる、ストライプ柄の服を身に付けている。ダイアンが手入れを行っている本格的すぎる家庭菜園も気になった。あれは何を意味しているのだろうか。「そう来たか!」と背筋が凍った、結末を知ったあともまた、楽しめるのがチャガンティ作品ならではだとも思う。そして、もし自分がダイアンの立場だったら、クロエの立場だったらと妄想がふくらむ。人それぞれ、何を考えるかはもちろん異なるだろうが、私が痛感したのは、「知識を身に付けておくことって大切・・・」ということだった。

なお、同作は2020年11月に、コロナ禍のアメリカで、定額制動画配信サービス「Hulu」で配信され、初週の週末に同サービスにおける視聴者数の最高記録を更新した。当初は同年の母の日に公開予定だったが、新型コロナウイルスのために延期となった。というか、こんな映画(ほめてます!)、母の日に公開するつもりだったんだ……。それもまたすごいなあ。

大ヒットを博した『search/サーチ』と、あえて異なる手法、テーマをとりあえげた、チャガンティ監督と製作チームの気概に感服する。次回作も楽しみだ。そして、久しぶりにまた、『search/サーチ』が観たくなった。

text by 長谷川あや

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サブ①_RRUN/ラン

監督・脚本:アニーシュ・チャガンティ 製作・脚本:セヴ・オハニアン
出演:サラ・ポールソン キーラ・アレン
6月18日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋他全国ロードショー
配給・宣伝:キノフィルムズ
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