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今なお花街として栄え、歩くだけでも京都らしい風情を味わうことができる祇園。通称「祇園さん」と親しまれ、縁結びや美容のご利益があることでも知られる八坂神社の参道にあたる四条通り、その南北両側に広がっているこのエリアを歩けば、そこに息づく古き日本の美しさに出会える。

祇園のメインストリートである花見小路通り。南側には古くからこの地で商いを行ってきた由緒ある茶屋や料理屋が立ち並んでいて、情緒ある町並みを維持継承し続けている。その四条通りから南へ花見小路を入ったすぐのところに老舗旅館 菊梅はある。 main07a
菊梅の歴史は、100年以上前の大正元年頃にさかのぼる。その頃の花見小路は建仁寺の竹やぶから開発されたばかり。菊梅は、当時の主人の趣味で設計され、茶室が4室、選りすぐりの材を使ってできた数寄屋造りの建物で、今も変わらずにその姿を留めている。梁や柱に使われている木材は今ではとても貴重なものだ。現代の建築技術でしても容易に再現できないような組み方で造られている部分も随所にある。自然と調和するように、という茶人の精神を礎に発達した数寄屋造りは、現代においても日本家屋の原型。中庭を中心にして、それを囲む居間や浴室から、四季折々で変化する庭の景色を愛でることができるのだ。




kikuume_bathroom大正浪漫の風情息づく和洋折衷の客間。


花街にあって会席料理屋として人々に親しまれてきた菊梅。その後、時代と共に変遷をたどり料理屋から旅館を運営するようになった。そしてこのほど、1年以上の期間をかけて京町家全体をリノベーション。2020年に新たな一歩を踏み出した。

リノベーションした客室は、1階の床の間の付いた客間に中庭が見える和情緒溢れるバスルーム、2階の応接室と居間、そしてベッドルームを贅沢に使える。ただ、宿泊や宴会の相談は紹介者を通しての完全会員制でのみの受付となっている。

(写真右)リノベーションした浴室の窓から風情のある中庭が見通せる形は、数寄屋造りならでは。

二階へ上がると、そこは意外にも洋風に設えられた応接間だった。明治と昭和に挟まれた大正時代。花街として栄えた祇園の店々も、当時流行の西洋様式を積極的に取り入れた。その名残りが垣間見える。screenshot.124まるで大正浪漫の時代さながら。かつて菊梅のご主人が知人から譲り受けたという化粧台は今も美しい佇まいで宿泊者を迎えてくれる。ベッドルームには洒脱なレースカーテンがひかれ、天井にはあたたかい光を灯すシャンデリア。畳の上には西洋の絨毯。中庭を見下ろせる格子窓。その簾の先には青紅葉が陽の光に揺れている。どこもかしこもタイムスリップしたかのような大正浪漫の雰囲気だ。たしかに菊梅のあるこの一帯は歴史的景観保全修景地区に指定されているため、木造建築を残して祇園独特の風情を継承することが義務でもある。とはいえ、この貴重な空間を維持し続けられるのは代々のオーナーに引き継がれてきた日本文化への深い造形と美意識の賜物である。

戦前は、堂本印象ら京都画壇の面々が集う京都でも屈指の会席料理屋として賑わい、戦後には、旅館として作家や芸能人たちに愛されてきた菊梅。応接室の棚には、贔屓の客たちからの手紙や料理屋だった当時のお品書きといった希少な品々が陳列され、その歴史を物語っている。
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遠州流茶道の師範が点てるお抹茶体験・お煎茶会。
亭主がセレクトした作家物が並ぶ和雑貨店。


img01b祇園の歴史と共に希少な日本の美しい宿の佇まいを今に留めている菊梅も令和の時代を迎え、世界屈指の観光地となった京都祇園の文化を国内外から訪れる観光客に披露し体験してもらう場を設けている。

茶室では遠州流の師範を招いて本格的なお抹茶体験と、様々な産地から取り寄せたお煎茶の飲み比べができるお煎茶会を定期的に催しており、誰でも予約が可能だ。お抹茶体験は第三火曜日に、1回定員4名参加費3,850円、お煎茶会は、第一火曜日、定員1回6名参加費2,200円となっている。お菓子付きで、希望をすれば着物の着付けとヘアセットもしてくれる。(着付けは5日前に要予約/別途費用が発生)体験後はそのまま着物で京都散策へ出かけられる。

img01菊梅の玄関すぐは和雑貨を取り扱う土産店になっている。バッグやポーチ、小銭入れやハンカチといった和小物やぐい吞みや徳利といった器類など、ご亭主がセレクトした品々を取り扱っている。日本の伝統素材である着物、帯地を素材に、さまざまな和小物を手掛けている藤本光栄子氏。京丹後市生まれで清水焼団地に窯を持つ作陶家の田中大氏。2005年に2004年度日本陶磁協会賞を受賞するなど現在の陶磁界を代表する一人である八代 清水六兵衛氏の作品など、他にはないラインナップだ。お店は営業時間であれば予約なしで立ち寄ることができる。菊梅ならではの京土産を探しに訪れてみて欲しい。

敷居が高いと躊躇してしまいがちな祇園の花街であるが、一歩踏み込んでみればそこは奥深い日本の粋と文化が凝縮した玉手箱のような場所だ。花街特有の文化もいまだその名残りをみせてはいるが、人と人は顔を見せあってはじめて交流が生まれ、双方信頼を寄せあうことができる、その日本人らしい信頼感を京都・祇園の町の人々は大切にしているのだ。京都祇園、ここにしかない、ここでしか体験できないものに触れてみたいと思うのであれば、ぜひ一度、菊梅のお店やお抹茶・お煎茶会を訪れてみて欲しい。

information


kikuume_info菊梅

住所:京都市東山区祇園町南側570-127
Tel:075-561-4475
アクセス:京坂「祇園四条駅」より徒歩5分、阪急「京都河原町駅」より徒歩10分、京都駅より車で約15分、バス停「祇園駅」より徒歩5分
宿泊・宴会:紹介制にて応相談
お抹茶体験・お煎茶会:お煎茶会(第一火曜日)、お抹茶体験(第三火曜日)要予約
和雑貨等販売 営業時間:11:30~18:30、定休日:水曜・年末年始