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去る2021年12月15日、イタリアから実に嬉しい知らせが届いた。「アルマーニ / リストランテ」のエグゼクティブ・シェフ、カルミネ・アマランテがイタリアを代表するレストラン・ガイド「ガンベロ・ロッソ」が世界中から1人だけ選ぶ年間最優秀シェフに選ばれたのだ。 2018年に来日したカルミネ・シェフは2020年8月に「アルマーニ / リストランテ」エグゼクティブ・シェフに就任。南イタリアのナポリ出身というDNAをフルに生かし、ナポリ郷土料理をファインダイニングへと昇華させるメニューを提案。そうした一年の活動がイタリア本国からも大いに評価されたのだ。

「ガンベロ・ロッソ」とは1986年にローマで創刊されたガイドブックで現在はイタリア国内のレストランを評価する「リストランテ・ディタリア」と、イタリア・ワインのバイヤーズガイド「ヴィーニ・ディタリア」を毎年発行、イタリアのレストラン&ワイン業界において最も影響力のあるガイドブックだ。レストランにおいては3つ星に相当する「3本フォーク=トレ・フォルケッテ」、同じくワインでは「3つグラス=トレ・ビッキエーリ」という独自の方法で評価。近年ではイタリア国外のイタリア料理店を評価する「ガンベロ・ロッソ・インターナショナル」WEB版を発表。今回カルミネ・シェフが受賞したのは、その「ガンベロ・ロッソ・インターナショナル」が選ぶ年間最優秀シェフ賞=シェフ・オブ・ザ・イヤーであり、同時に「アルマーニ / リストランテ(東京)」は「3本フォーク=トレ・フォルケッテ」にも輝いた。

実はこのニュースが届く前、「アルマーニ / リストランテ(東京)」を訪れてカルミネ・シェフの最新のメニューをいただきつつ最近の活動や料理など、さまざまな情報交換をしたばかり。するとほどなく「ガンベロ・ロッソ・インターナショナル」編集長である友人ジャーナリスト、ロレンツォ・ルッジェーリから連絡があった。「カルミネ・アマランテを年間最優秀シェフ賞候補に考えているのだがどう思うか?」ということだった。そこで先日カルミネ・シェフから聞いたここ一年の活動や最新の料理内容などを伝えたところ、やがて届いたのがカルミネ・シェフ年間最優秀シェフ賞受賞の知らせだったのだ。それは日本のイタリア料理界のレベルの高さがイタリアからも認められた証であり、日本はじめ海外の動向にも注目する「ガンベロ・ロッソ」のワールドワイドな活動を如実に示すエビデンスでもあった。

armani_carmine01 では、そのカルミネ・シェフの最新料理をいくつか紹介してみたいと思う。最初に登場するフィンガーフードのアミューズ・ブーシュはカボチャのクリームを詰めたボンボン、ギリシャチーズとキャビア、エディブルフラワーのサブレでGAのロゴが刻まれている。ブリオッシュには自家製の和牛ブレザオラ、柑橘マヨネーズ、さらにイタリアから届いたばかりの白トリュフをふんだんにトッピング。ブレザオラとは北イタリアで作られる牛肉の生ハムだが、カルミネ・シェフは脂が控えめなA4ランクの和牛を山椒と昆布でマリネし3か月エイジング。自分だけの極上のブレザオラを作り出すことに成功、実りの秋を表現した食べ応えある一口サイズのミニ・パニーノ。
armani_carmine03芯をレアにソテーしたホタテにはほうれん草のマリネ、ブッラータ、パルマ産生ハムからひいたコンソメには黒トリュフのブルノワーズがたっぷり。さらに木の葉型のトリュフで彩を添えてある。ウニやホタテなど、日本を代表する味をうまくイタリア料理に取り込むのはカルミネ・シェフの真骨頂だが、これは最大限に引き出したホタテの甘みに生ハムのコンソメの上品な塩味のコントラスト。山と海の素材を上手にまとめて香り高く、旨味のハーモニーが素晴らしい一皿。
armani_carmine04 ハイライトとなるパスタはカルミネ・シェフが得意とする手打ちの詰め物パスタ、トルテッロだ。伝統的にイタリアでは北に行くほど卵黄と軟質小麦を使った手打ちパスタが多くなり、南に行くほど硬質小麦を使った乾燥パスタが多くなるのだが、カルミネ・シェフはナポリ出身とはいえ手打ちパスタを常にメニューに加える。それはいかにパスタのアイデンティティを崩さず、しかも芸術的領域まで高めるかという、日々たゆまない思考を積み重ねた結果なのだろう。とても薄くて滑らかなトルテッロの中身はナスのペースト。一晩寝かせたリコッタ、トマトのコンフィ、マイクロバジルを従えたその姿は、小さな花束のようだった。プレゼンテーションは可憐かつ繊細ながらもナス、バジル、リコッタチーズ、トマトソースの組み合わせはシチリアの伝統料理「ノルマ風パスタ」そのもの。「ノルマ」とはシチリア出身の作曲家ヴィンチェンツォ・ベッリーニの代表的なオペラで、かつてこのパスタを食べたシチリア人が、あまりの美味しさに「これはノルマのように素晴らしい!」と叫んだことに由来するといわれている。ファインダイニングながらも伝統料理には限りない愛情と敬意を示す、カルミネ・シェフらしいパスタだった。
armani_carmine05 平目料理は、平目の身と卵、パセリ、バターを合わせてムース状にしたものを包んであり、カリフラワーと野菜のブイヨン、大分産サフランを使ったソース。カリフラワーもカルミネ・シェフが好んで使う食材のひとつだが、香ばしくソテーしてあり心地よい食感が柔らかいヒラメとよくあう。そして目にも鮮やかなサフランソースの美しさとかぐわしさがとても印象深い。

「リストランテ/アルマーニ」のエグゼクティブ・シェフに就任してからの1年間、カルミネ・シェフは積極的に日本各地に出かけ、食材の現場を目の当たりにし積極的にメニューに取り入れてきた。また、地方自治体とともにさまざまなプロジェクトにも取り組み、イタリア料理というフィルターを通した食材の可能性と未来についても交流を続けている。日本にイタリア料理文化を広めるそうした活動は、イタリア料理大使と呼ぶにふさわしい。今回のエポックメイキングな受賞はカルミネ・シェフ自身と「アルマーニ / リストランテ(東京)」のみならず、日本のイタリア料理界全体に与えられた誇るべき賞なのではないだろうか。コロナ禍においても研鑽に励み、己の料理を高めることを常に目指してきたカルミネ・シェフに心から祝福を贈りたい。

Text Masakatsu Ikeda

restaurant information


GA TOKYO GINZA TOWER (14)アルマーニ / リストランテ(東京)

住所:東京都中央区銀座5-5-4 アルマーニ / 銀座タワー 10階&11階
Tel:03-6274-7005
Lunch 11:30~15:00 (L.O.14:00) Dinner 18:00~23:00 (L.O.20:30)
定休日:月曜日
年末年始は、12月28日~1月5日 ランチタイム(CLOSE)
https://www.armaniginzatower.com/
profile


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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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