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去る2022年3月29日「2022年アジアのベストレストラン50」の発表会が、大手町のパレスホテルで開催された。日本はじめシンガポール、中国、香港、マカオなど各国・地域はまだコロナ禍から完全脱却したとはいえないまでも昨年に比べれば大きく前進。今年はジャーナリスト、レストラン関係者など多くの招待客が集う華やかなセレモニーとなった。

簡単に「アジアのベストレストラン50」を説明すると、これは「食のアカデミー賞」ともいえるアワードで「世界のベストレストラン50」を筆頭に各地域ごとに「ラテンアメリカのベストレストラン50」や、今年初めて開催された「中近東と北アフリカのベストレストラン50」アジアナンバーワン・レストランを決める「アジアのベストレストラン50」がある。以前からレストランガイドは古今東西数多く存在するがこの「ベストレストラン50」は「ガストロノミー」という言葉を定着させた最大の立役者といっていいだろう。いまやインスタグラムはじめとしたSNSで最も人気あるコンテンツはガストロノミー=美食であることは疑う余地はない。

今年でちょうど10年目となる「アジアのベストレストラン50」において、これまで日本のレストラン界の存在感の強さは群を抜いており、アジア1位に輝いたこともある「NARISAWA」はじめ多くの日本のレストランが毎年ランクインし、喜びの場となるのがもはや恒例となっている。

ロンドンから生中継でカウントダウン!
東京、バンコク、マカオのアジア三都市で同時セレモニー。


会場のパレスホテルに足を運ぶと「傳」の長谷川在佑シェフとばったり会った。「今年は1位なんじゃないですか?」と声をかけたのだが、意外にも長谷川シェフは「それよりも今年ランクインできなかったシェフたちのことが心配なんです。みんな元気にしてるかなって」と心底心配そうな表情を見せてくれたのだ。入賞シェフたちによるトークショー、そして関係者によるカクテルタイムというプレイベントが終わると、いよいよアワードの盛り上がりも最高潮、ランキング50位からのカウントダウンが始まった。

asiabest50_2022_02(写真)左:固唾をのんでランキングを見守るシェフたち。右:43位に見事初のランクインとなった京都「チェンチ」の坂本健シェフ。

今年のアワードは「アジアのベストレストラン50」を主催するウイリアム・リード社がロンドンから生中継、その模様は東京、バンコク、マカオのアジア三都市で同時中継、各都市でセレモニーが行われている。まず日本勢のトップを切って登場したのが初のランクインとなる43位京都「チェンチ」。昨年末にも取材させていただいたが壇上の坂本健シェフの、ここ2年ほどの飛躍はものすごいものがある。42位「エテ」、36位「ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナトゥール・ゴウ」17位「セザン」、15位「NARISAWA」と続く、14位にはこれも初登場の和歌山「ヴィラ・アイーダ」がランクイン。自ら畑を耕しイタリア的思考で料理を作る小林寛司シェフは初登場最高位に贈られる「ハイエスト・ニュー・エントリー賞」も受賞した。さらに13位には昨年より14位アップし「ハイエスト・クライマー賞」を受賞した「オード」、中華料理「茶禅華」が11位と続々と日本のレストランから上位入賞を果たしている。

asiabest50_2022_01(写真)発表の瞬間、感極まった表情をみせた長谷川在祐シェフ。

そしてランキングはいよいよ大詰め、トップ10となっても日本勢の快進撃は続く。大阪のフレンチ「ラ・シーム」そして川手寛康シェフの「フロリレージュ」が3位にコールされると、残るはあと2軒。名前を呼ばれるたびに歓声はひときわ大きくなるのだが、この時点でまだ名前を呼ばれていない日本のレストランは長谷川在佑シェフ率いる「傳」のみ。すでに日本最高位となる「ベスト・レストラン・イン・ジャパン」5年連続受賞は確定したがあとは念願の1位獲得なるかどうか。2位にアナウンスされたのはタイの「ソーン」この瞬間「」にとっては初のアジア1位が決定したのだ。長谷川シェフは感極まって思わず立ち上がり、盟友である川手シェフと熱い抱擁。さらに会場に向かってなんどもお辞儀を繰り返した彼の目に光るものが見えたのは気のせいではないだろう。2013年の「NARISAWA」以来、実にひさしぶりに日本のレストランがアジアナンバーワンの座に返り咲いたのだ。

asiabest50_2022_03 (写真)傳のシグネチャーディシュ「傳サラダ」(左)と「傳タッキー」(右)。

「傳」の魅力はこれまでに何度か体験しているが、なんといっても和食の世界にとっては型破りといってもいい長谷川シェフの明るさと寛容さからくる居心地の良さだろう。本格的な和食に向き合うと、時に緊張し、かしこまってしまうのは外国人のみならず我々日本人も同様。しかし長谷川シェフはその持ち前の明るいキャラクターで、肩肘張らずに楽しくそして美味しい和食の魅力を自ら伝えてくれているのだ。「傳タッキー」「傳サラダ」といったユーモアあふれる一連のシグネチャーディッシュを見ればそれは一目瞭然。日本料理の新たな魅力を世界中に発信してくれる長谷川在佑シェフ、そしてチーム傳の快挙に心から拍手を送りたい。

Photo&Text Masakatsu Ikeda

profile


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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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