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イタリア・アブルッツォ州は、イタリア半島を長靴にたとえるならば膝裏のあたり、イタリア中部のアドリア海とアペニン山脈に挟まれた緑あふれる州だ。ツアーに組み込まれるような有名観光地が少ないためか、日本では馴染みの少ない人も多いかもしれないが、自然の豊かさはヨーロッパのなかでも名高く、州内には3つの国立公園と10以上の国立、州立自然保護区が点在。「緑の州」とも呼ばれている。

その沿岸部に広がる丘陵地帯で古くから行われてきたのが、ワイン造りだ。その総生産量はキャンティよりも多く、約3億5千万リットルと実はイタリア屈指。昼夜の寒暖差が大きく、降水量も日射量もブドウ栽培には理想的という、恵まれた気候が質の高いワイン造りを支えている。

"緑の州"アブルッツォのテロワールを宿すワインと平木正和シェフの珠玉のペアリング料理。

Aman&Abruzzo08去る4月7日、アブルッツォ・ワイン保護協会主催のプレス・ランチが、東京・大手町のホテル、「アマン東京」内のレストラン「アルヴァ」で開催された。提供されたのは、エグゼクティティブシェフ、平木正和さんの特別料理と、この日のために厳選されたアブルッツォ・ワインとのスペシャル・ペアリング。日本ではまだ広く知られていないアブルッツォ・ワインの魅力を発見する、またとない特別な機会となった。

まずはソムリエの林茂さんから、アブルッツォ州のワインについての解説。「アブルッツォ州には、イタリアの規定では最上位にあたるD.O.C.G.(統制保証付原産地呼称ワイン)が2つ、2番目のD.O.C.(統制原産地呼称ワイン)が7つ、3つ目のI.G.T.(地域特性表示ワイン)が8つあり、D.O.C以上のワインの生産量がイタリアで一番多い地域です。そのうち6割強が赤とロゼ、4割弱が白で、赤のほとんどがモンテプルチアーノ、白はトレビアーノとペコリーノという品種です。モンテプルチアーノは、この土地の気候、温度、土壌によく合っている品種で、サンジョベーゼと非常に近いと言われていたのですが、19世紀に違う品種だと分かり、日の目を見たものです。」と、林さん。果実味があって飲みやすいワインが多く、生産量をみても「試すならば、まず赤から。」が林さんのおすすめだ。
Aman&Abruzzo01(写真)左:イタリアから直送された白1本、ロゼ1本、赤3本のワイン、計5本に合わせて、平木正和エグゼクティブシェフがスペシャル料理を披露した。右:左から、ソムリエ 林茂氏、エグゼクティティブシェフ 平木正和氏。イタリア在住ジャーナリスト 池田匡克氏。

そしていよいよ、イタリアで培われた伝統の食文化に敬意を払いつつ、日本各地で生まれる旬の食材を巧みに使った奥深いイタリア料理を提供する平木さんの料理とのペアリングがスタートだ。



Aman&Abruzzo02 「鰊と山菜のヴァリアツィオーニ」×
CIAVOLICH 2019 FOSSO CANCELLI TREBBIANO D’ABRUZZO D.O.P.
チアヴァリッチ 「トレッビアーノ ダブルッツォ フォッソ カンチェッリ2019」(白)

しっかりとしたミネラル感と柑橘や白い花の香りを持つ白ワインに合わせたのは、日本の春をイメージしたニシンのひと皿。オイル漬け、酢漬け、燻製と3種の調理法によるニシンの旨みや、ほろ苦さのある山菜(うど、うるい、ふき)がワインとの繊細な調和を醸し出し、後口はすっきり。

Aman&Abruzzo03 「ホウボウと桜エビのブロデット サフラン」×
BARONE DI VALFORTE 2021 VALFORTE ROS È CERASUOLO D’ABRUZZO D.O.P.
テヌータ バローネ ディ ヴァルフォルテ 「チェラスオーロ ダブルッツォ2021」(ロゼ)

“桜”の名に違わず、愛らしい桜色に歓声が上がったのが、このロゼワイン。香りもイチゴのように甘くありながら、飲めばシャープな酸が押し寄せて、若いヴィンテージならではのフレッシュ感が広がる。料理は、アドリア海沿岸でよく食べられる魚介のスープ「ブロデット」をアレンジし、皮目をパリッと焼いたホウボウにトマト入り魚介ソースと、香り高いサフランと魚介のエスプーマを添えて。濃厚なコクとスパイシーさがワインの個性と絶妙なハーモニー。

Aman&Abruzzo04 「アスパラガスと相模原産有精卵 ペコリーノロマーノ」×
FATTORIA GIUSEPPE SAVINI 2019 RONDINETO MONTEPULUCIANO D’ABRUZZO D.O.C.
ファットリア ジュゼッペ サヴィニ 「モンテプルチァーノ ダブルッツォ ロンディネト 2019」(赤)

「おとなしくて可愛く、ステディな(安定感のある)ワイン」と林さんが評する、ベリーやスミレの香りとさわやかな果実味を持つワイン。料理は、「カチョ・エ・ウォーヴァ」という、ペコリーノや卵を使った団子状のアブルッツォ料理から着想したといい、アスパラガスに濃厚で塩気のあるチーズのソース、ポーチドエッグ、黒トリュフの組み合わせ。ワインとの心地よいマリアージュが楽しめる。

Aman&Abruzzo05 「北海道産オーガニック全粒粉のスパゲッティ アッラ・キタッラ 蝦夷鹿のラグーとアイヌネギ」×
TENUTA TORRI CANTINE 2018 BAK ÁN MONTEPULUCIANO RISERVA D.O.C.
カンティーネ トッリ 「モンテプルチァーノ ダブルッツォ リゼルバ バカン2018」(赤)

ブドウの凝縮感が力強くて酸もしっかり、赤い果実、スミレ、スパイスの香りも漂うビオの赤ワイン。アルコール度数14.5%ながら、熟成されたまろやかさと味わいの奥深さが感じられ、噛めば噛むほど旨みあふれる蝦夷鹿との相性は抜群! 細かくミンチしたラグーと、力強い香りを放つアイヌネギ(行者ニンニク)と合わせた大きめの肉が重層的な味わいをもたらし、全粒粉の手打ちパスタはモチモチ。ピリッとした辛みもよく、ワインとの重厚な調和が圧巻。

Aman&Abruzzo06 「ニュージーランド産スプリングラムのアッロースト アブルッツォ産黒オリーブ オレガノとトマト 新じゃがいものローザ 青森県産大蒜とバルサミコ」×
COLLEFRISIO 2014 SEMIS MONTEPULCIANO D’ABRUZZO DO.O.C.
コッレフリージオ 「モンテプルチァーノ ダブルッツォ セミス 2014」(赤)

選別した葡萄を小樽で24カ月熟成し、凝縮感たっぷりに仕上げられたワインは、ザクロや桑の実、チェリー、スパイスなどの風味を持ち、酸もあって力強い味わい。アブルッツォでよく食べられるというラム肉にもぴたりと合う。ミンチにして黒オリーブと混ぜたラム肉を、骨付きラム肉の周りに巻いてローストし、付け合わせは、バルサミコ酢を加えて煮詰めたニンニクとジャガイモ。複雑味ある力強さがワインと出合い、ふくよかな深みに包まれる。

Aman&Abruzzo07「パロッツォ アーモンドとチョコレートのトルタ オレンジのカラメラート ジェラートヴァニラ」

食後のデザートには、アブルッツォの「トルタ・パロッツォ」をアレンジした「バロッツォ アーモンドとチョコレートのトルタ オレンジのカラメラート ジェラートヴァニラ」が提供され、余韻覚めやらぬなか会はお開きに。素晴しいペアリングの数々に、参加者たちも大いに魅了されたようだった。 人気の高いイタリアワインのなかでも日本ではまだまだ知名度の低いアブルッツォ・ワインだが、飲んでみれば、アブルッツォならではの豊かな自然や土地の景色、そして情熱あふれる造り手の姿がまぶたの裏に浮かんでくるよう。こんなに個性豊かで、質の高いワインを知らないでいるなんてもったいない! 現地を旅する気分で、まずは手軽なものからアブルッツォならではのワインの魅力を発掘してみてはいかがだろう。

Text Rieko Seto

restaurant information


aman-tokyo-arva-interior アルヴァ アマン東京

住所:東京都千代田区大手町1-5-6 大手町タワー
Tel:03-5224-3339
営業時間:ランチ12:00~14:30、ディナー17:30~22:00(20:00L.O.)
定休日:火・水(祝日の場合は営業)


profile


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瀬戸理恵子 フードエディター・ライター

1971年東京都生まれ。銀行勤務を経て2000年にパリへ製菓留学し、エコール・リッツ・エスコフィエ、ル・コルドン・ブルー パリで菓子ディプロムを取得。ピエール・エルメ氏のもと研修を重ねる。2001年帰国し、月刊誌「料理王国」、「料理通信」の編集部を経て、2009年独立。お菓子を中心にフリーランスのフードエディター・ライターとして活動中。監修・共著に「東京手みやげ 逸品お菓子」(河出書房新社)など。このほか、「『オーボンヴュータン』河田勝彦の郷土菓子」(誠文堂新光社)『アテスウェイ 川村英樹の菓子』など、パティシエの書籍製作も手がける。
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