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中部イタリアの古都フィレンツェはルネサンス発祥の地であり、14世紀から15世紀にかけては多くの芸術家が活躍してきた街だ。マルチな天才レオナルド・ダ・ヴィンチ、大理石に生命を吹き込んだ彫刻家ミケランジェロ、メディチ家のために多くの作品を描いたボッティチェッリ、などフィレンツェで活躍した芸術家は推挙にいとまがない。 そうした偉人たちが遺したDNAは今も健在でフィレンツェには絵画学校や修復学校も多く、現役のアーティストも多く活躍する。ELISABETTA ROGAI(エリザベッタ・ロガイ)さんもそんなルサンスの偉人の系譜を受け継ぐ芸術家の一人だ。

ELISABETTA_ROGAI_05フィレンツェ市中心部からやや離れた閑静な住宅街にあるエリザベッタさんのアトリエには、多くの作品が所狭しと並べられていた。「ようこそ、よろしかったらゆっくりと見ていってね。 」と招き入れてくれたエリザベッタさんの案内で、アトリエをひと通り見て回る。美しい色調の風景画や動物の絵、ポートレートなど彼女がこれまでに手がけて来た作品のギャラリー兼創作の場であるのだが、壁に飾られたポートレートの多くはヴィンテージタッチで、古いポートレート写真を思わせるようなセピア色の作品が多い。そう、エリザベッタさんは絵の具の代わりにワインを使って作品を描く"エノアート"の第一人者として世界的に有名なアーティストなのだ。



ある偶然のひらめきから、トスカーナ産のワインで絵画を。

もともとフィレンツェがあるトスカーナ州はキャンティ・クラッシコやブルネッロ・ディ・モンタルチーノなど、昔から赤ワインで有名な土地。エリザベッタさんは普段から慣れ親しんでいるトスカーナ産のワインを絵画に活かす方法を考案したのだが、それはある偶然の出来事に由来している。

ELISABETTA_ROGAI_06 「ある日友人の家で食事をしていたんですが、場が盛り上がってきて友人がうっかり赤ワインをこぼしてしまったんですね。でもテーブルクロスにできたその染みは、わたしにはとても美しい文様に見えたのです。思わず、これはアートよ、と叫んでしまいました。」と語る。

以来赤ワインをどうやって絵画に取り入れるか研究を重ね、独自の手法で赤ワインを加工してキャンバスに定着させる技法を開発。2010年から"エノアート"として多くの作品作りに取り組んできたのだが、現在最も力を入れているテーマが女性の肖像画だ。


"女性とは時間が経てば経つほど美しさが増す存在"
それはまるでワインが熟成を重ねるように―。


「女性とは時間が経てば経つほど美しさが増す存在。わたしの作品も描いたばかりの時は鮮やかなワイン色なのですが、時間とともに酸化が進み、色もニュアンスも変わっていきます。それは絵の具では表現できない時間の流れであり、年月を経てワインが熟成していくように女性も年を重ねて熟成していきます。つまりエノアートとは女性そのものなのです。」
ELISABETTA_ROGAI_03 9才から絵を描き始め、70年代にはすでに初めての個展を開いたというエリザベッタさんはトスカーナのワイナリーの依頼で、ワインを使ってラベルを描いたことや、ライブパフォーマンスをしたこともある。これまで作品の展示にあわせてライブパフォーマンスを行って来たのはロサンゼルスや香港、ギリシャ、中国などの外国や、地元フィレンツェをはじめとしたイタリア各地。2019年には現在フィレンツェ市庁舎となっているヴェッキオ宮殿の500人広間でライブパフォーマンスを行ったこともある。500人広間とは、過去にダ・ヴィンチやミケランジェロ、ヴァザーリらがフィレンツェのために壁画を描いて来た、ルネサンス芸術の聖地である。その聖地でライブパフォーマンスを行うというのだから、エリザベッタさんがいかにフィレンツェでの評価が高いかもわかってもらえるだろう。
ELISABETTA_ROGAI_04 ワインと文化、そしてアートを融合させたエリザベッタさんの世界はため息が出るほど美しい。なにより彼女自身がキャンバスに向かう瞬間はとても生き生きとしており、年月を重ねるごとに美しく輝いているのだから。美を追求するイタリア女性のこだわりと生き方は、わたしたちも大いに学ぶところがありそうだ。

Text & Photo Masakatsu Ikeda

artist information


ELISABETTA_ROGAI_info ELISABETTA ROGAI

住所:Via Giuseppe Tartini 13/b 50144 Firenze
e-mail:elisabettarogai@gmail.com
Facebook:https://www.facebook.com/elisabettarogaienoarte
Instagram:https://www.instagram.com/enobetta/


profile


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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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