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南米を代表するトップシェフ、ヴィルヒリオ・マルティネス氏による日本初のレストラン「MAZ(マス)」が2022年7月、東京・紀尾井町にオープンした。ヴィルヒリオ氏はこれまで独創的な料理を通じ、故郷ペルーの生態系や多様性を世界に発信してきた南米を代表する料理人だ。 ペルーの首都リマにある彼のレストラン「Central(セントラル)」は2022年度の「世界のベストレストラン50」で第2位、同南米ベストレストランでは「レストラン・オブ・ザ・ディケイド」に選ばれている。そのヴィルヒリオ氏が2年以上の準備期間をかけて準備し、満を持してオープンしたのが「MAZ」だ。

南米トップシェフ ヴィルヒリオ・マルティネス氏
来日して語った料理哲学、エコシステムとは。


日本では一般的にあまり馴染みがないペルー料理だが、ジャガイモやトマト、唐辛子といった食材はペルー原産であり、コロンブスの新大陸発見を機にヨーロッパに持ち込まれ世界中に広まった。ペルーにはかつてスペイン人や日本人も多く入植したことから、様々な人種が混在して多様な食文化を形成しており、スペイン料理の影響が強いクレオール料理や、日本料理の影響を受けたNIKKEI(日系)料理など実にバラエティに富んでいる。また、首都リマがある沿岸部コスタから標高4000メートルを超えるアンデス山脈があるシエラ、そしてアマゾン流域のセルバにいたるまで複雑かつ多様な高度と生態系を誇る食材の宝庫なのだ。

「MAZ」オープニングのために来日したヴィルヒリオ氏は、東京・紀尾井町「MAZ」で提案する料理についてこのように話してくれた。
maz_ph5(写真)左:「セントラル」のシェフで南米トップシェフのヴィルヒリオ・マルティネス氏。右:「MAZ」のヘッドシェフを務めるサンティアゴ・フェルナンデス氏。

「この地球上には190種類の気候が存在するといわれていますが、ペルーには84種の異なる気候が存在します。ですから私たちにとって料理にエコシステム=生態系を取り入れるのはとても自然なことなのです。『MAZ』では日々私たちがセントラルで実践している哲学を、日本のエコシステムに取り入れることに取り組んでいます。私たちがペルーから持ってきたのはカカオ、コーヒーなど一部の重要食材だけで全体の2割程度、残りは全て日本産です。ヤーコンやマカなどペルーの食材も日本で手に入りますし、なにより日本のシーフードは素晴らしいので、ペルーから魚を持ってくるなどはナンセンスです。初めて日本にきた8年前に、私は非常に感銘を受けました。これほど伝統と文化がある国は世界にもありません。これまでセビーチェなどのリマのペルー料理は世界に広まりましたがアンデスやアマゾンの料理というのは世界に出たことがありません。わたしたちは料理を通じ、日本でペルーの多様なエコシステムを表現したいと思っているのです。」maz_ph3(写真)「MAZ」の一皿ひとさらにはインスピレーションとなるテーマを表現したカードが用意されており、視覚的にもメニューの概念を体感することができる。

ペルーの生態系=エコシステムを9皿のうちにみせる、
壮大なMAZのスケール。


「MAZ」はヴィルヒリオ氏と妹のマレーナ氏が運営する調査機関マテル・イニシアティバがプロデュースし、「バーティカル・ワールド」というペルーの9つの生態系を取り入れた9皿のメニューを提供する。
maz_ph1例えば標高0メートルをテーマにした「OCEAN HAZE 海霧」(写真上)は自家製のダコのエキスを使い、スピルリナという海藻でできた青い泡、イカ墨の網で海を表現してあり冷たい海の下にタコが隠されている。「これは表現しているのはペルーのエコシステムですが、全て日本の食材を使っています。」とヴィルヒリオ氏はいう。
maz_ph2「HIGH ALTITUDE FOREST 高地の森」(写真上)はサボテンの根であるカブヤ、バワハナナッツ、ピタハヤを使った、標高1890メートルの高地の森をテーマにしたデザート。さらに発酵ハチミツをトッピングしたカブヤのグラニータがそえてある。オリエンタルともエスニックとも違う、濃密な木々の香り漂うジャングルの奥でひっそり美食を味わっているような気持ちにさせてくれる一皿だ。

maz_ph7一方日本に常駐し「MAZ」のヘッドシェフを務めるのはヴィルヒリオ氏の右腕として「セントラル」で活躍したサンティアゴ・フェルナンデス氏(写真右)。スペイン・バスクにある料理専門大学で学位を取得したあとペルーに渡ったベネズエラ出身のヤングシェフだ。

「日本でペルー料理を提供するにあたり、日本の食材に対して謙虚でありたいと思っています。日本の食材が持つ季節感も大事にしたいですし、リスペクトを持ちつつそこにペルーのフレーバーを加えたい。それは非常に興味深い試みだと思います。」と語ってくれた。

MAZで遭遇する独自の世界観は、料理だけではない。 maz_ph4
または「MAZ」ではマテル・イニシアティバがプロデュースしたオリジナルのスピリッツやリキュールを使ったカクテルも楽しめるのも特筆すべき点だ。「カケ Q’AQE」を味見させてもらったが、これはアンデスに自生する野生のハーブや木の根を使ったビターなのだが、さまざまなボタニカルに加えレモンやライムなど爽やかな柑橘のアロマが特徴的。こうしたオリジナル・リキュールやスピリッツは「セントラル」か「MIL(ミル)」、そして 「MAZ」でしか味わうことができないので、ぜひここは料理とともにペアリングをチョイスしたい。

maz_ph6またコーヒーや食器、カトラリー、そしてBGMまで全て「MAZ」のためにマテル・イニシアティバがセレクトした、オリジナリティあふれる空間も見どころのひとつ。「MAZ(マス)とはスペイン語のmas『より多く』という言葉に由来しています 」とヴィルヒリオ氏はいう。それはMater Iniciativa(マテル・イニシアティバ)のモットーである「外にはもっとたくさんのものがあるAfuera Hay Mas」とヴィルヒリオ氏が頭に描く料理の世界観を表現している。「もっと新しい料理体験をしたい」そう望む美食家たちにとって「MAZ」は注目の的となりそうだ。

Photo&Text Masakatsu Ikeda

restaurant information


0-4 MAZ (マス)

住所:東京都千代田区紀尾井1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町3F
定休日:火曜日
席数:20席
<コースメニュー>
VERTICAL EXPERIENCE(9つの異なる高度の旅)24,200円
VEGETARIAN VERTICAL EXPERIENCE(9つの異なる高度を持つ野菜のメニュー)24,200円
<MAZ PAIRING ペアリング>
MAZ PARING 15,950円 ペルーから始まり、世界中の最高の産地のワインやアルコールを巡る旅
EXPERIENCE AND SENSES 10,450円 ネクター、インフュージョンなど料理に合わせたノンアルコールペアリング ※価格は税込み


profile


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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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