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"美食を求めて旅をする"、そんな旅のトレンドから、宿泊施設を備えたレストラン、いわゆるオーベルジュが日本の各地で注目を集めている。編集部では、北陸は石川県・富山県にフォーカスし、都会では感じることのできない驚きと、忘れられない感動を私たちに与えてくれるいま注目の4軒を取材。料理ジャーナリスト池田匡克氏のレポートでお届けする。
levo_ph042軒目は石川県小松市観音下にあるフランス料理店の「Auberge“eaufeu”(オーベルジュ オーフ)」。過疎化により廃校となった小学校がオーベルジュとして生まれ変わった。シェフは料理コンペティションで史上最年少グランプリを受賞した若手料理人、糸井章太氏。この地に移り住み、地域の人々と立ち上げた糸井シェフの新たな挑戦に注目が集まる一軒だ。




小学校をコンバージョンした画期的な地方再生プロジェクト

levo_ph02「オーベルジュ オーフ」は石川県小松市観音下町(かながそまち)に7月14日にオープンした最新北陸オーベルジュだ。金沢から小松方面に車を走らせること約1時間。途中風光明媚な十二ケ滝やミズバショウ群生地を通り抜けるとやがて観音下町に着く。観音下町は大正時代には石切場が開かれて栄えたものの現在は過疎化に直面しており、平成30年には町のシンボルだった旧西尾小学校が廃校となる。「オーベルジュ オーフ」は廃校となった旧西尾小学校をコンバージョンした地方再生プロジェクトだ。
確かに外観には小学校の面影が残されており、西尾小学校と刻まれた石碑や、鉄棒、ジャングルジムが並ぶ校庭、プールなどが当時のまま残されている。一方校舎部分は全面的にコンバージョンされ、玄関部分には宿泊客以外でも利用可能なカフェスペースがある。ここで出迎えてくれたのが1992年生まれの若き料理人、糸井章太氏。糸井氏の案内で奥のレストランを見せてもらうのだが、小学校を改装したとは思えない実にモダンな空間に驚く。ダイニングスペースは元職員室、奥にある個室は元校長室だというユーモアあふれる作りになっている。
maz_ph2(写真)糸井氏の案内で厨房や発酵部屋などを見せてもらった。

2階と3階は全12室のゲストルームで、図書室を改装したスイートルームは細長い校舎の両端にある。昔懐かしい黒板が残された部屋もあり、廊下には昔懐かしい水飲み場もそのまま。広い屋上はテラスとなっており、今後はウエディングやパーティ用にも使用可能。正面には石切場跡が昔の名残をとどめており、有名酒蔵、農口尚彦研究所もすぐ隣に見える。
maz_ph2maz_ph2(写真)小学校の教室をコンバージョンしたモダンな客室は、どことなく懐かしい雰囲気が漂う。






里山の可能性を拓く糸井シェフのイノベーティブ料理。

maz_ph2レストランでランチ、ディナーともレストランで提供するのは、地元石川県の食材を使ったイノベイティブ料理。糸井氏は観音下の水にこだわり、料理の仕込み水にも地元の水を使用している。例えば「木の芽 西俣どじょう」は石川県の清流で育ったどじょうの唐揚げと山椒に、農口尚彦研究所の甘酒とヨーグルトのディップ。「鮎 きゅうり カプーアバジル パクチー」は夏らしい爽やかな料理。鮎のフリットを一度開き、で中にはきゅうり、パクチー、カプーアバジルがしのばせてある。
maz_ph2(写真)左:「木の芽 西俣どじょう」 右:「鮎 きゅうり カプーアバジル パクチー」。

肉料理はジビエならば猪。わなで取れたという「イノシシ でけえなめこ のびる ジュニパーベリー」は子羊のような柔らかい肉質で脂がとても香ばしく、黒にんにくを思わせるようなジュニパーベリーの香りが印象的。こうした料理には農口尚彦研究所の日本酒や、地元産のハーブを使ったオリジナルカクテルなど、興味深いペアリングもあるので楽しみだ。
maz_ph2(写真)左:「蛍米 大麦・キャビア」 右:「イノシシ でけえなめこ のびる ジュニパーベリー」 。

ちなみに「オーフ eaufeu」とは料理の原点である水=Eauと火=Feuから作られた造語。しかしそれは料理のみならず、廃校オーベルジュで地方再生という画期的なプロジェクトにとって、重要なキーワードとなるはずだ。

Photo&Text Masakatsu Ikeda


 北陸オーベルジュ特集 
Vol.01 「L'évo」|富山県利賀村
Vol.02 「Auberge“eaufeu”」|石川県小松市
Vol.03「Villa della Pace」|石川県七尾市
Vol.04「湯宿 さか本」|石川県珠州市

restaurant information


0-4 Auberge“eaufeu”(オーベルジュ オーフ)

住所:石川県小松市観音下町ロ48
Tel:0761-41-7080
定休日:
オーベルジュ:火、水休(祝日の場合は営業)
レストラン: ランチ12:00〜15:00(土日祝のみ)16,500円、ディナー17:30〜22:00火・水休(祝日の場合は営業)16,500円
カフェ:11:00〜17:00 火・水休(祝日の場合は営業)
※料金は全て税込み、サービス料別


profile


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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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