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"美食を求めて旅をする"、そんな旅のトレンドから、宿泊施設を備えたレストラン、いわゆるオーベルジュが日本の各地で注目を集めている。編集部では、北陸は石川県・富山県にフォーカスし、都会では感じることのできない驚きと、忘れられない感動を私たちに与えてくれるいま注目の4軒を取材。料理ジャーナリスト池田匡克氏のレポートでお届けする。
levo_ph043軒目は石川県七尾市にあるイタリアン・オーベルジュ「Villa della Pace(ヴィラ・デラ・パーチェ)」。能登半島は三方を海に囲まれ、丘陵地が多く平地が少ないため、里・山・海が隣接している。海辺にひっそりと佇むこの一軒は、石川県の里山里海の豊かな恵み、この場所に来ないと手に入らない食材を活かした秀逸なイタリア料理を供すると話題だ。ロケーションの美しさも必見、自分だけが密かに知っておきたいとっておきの一軒だ。




七尾湾の岸辺に佇む、平和で美味なイタリア料理レストラン。

VilladellaPace_ph02能登にあるオーベルジュ「ヴィラ・デラ・パーチェ」は七尾湾の静かな海を見渡す絶好のロケーションにある。1986年生まれの平田明珠氏は東京でイタリア料理店に勤務している頃から地方でレストランを開くことを目標とし、2016年それまで縁もゆかりもなかった能登への移住を実行した。最初は「ヴィラ・デラ・パーチェ」を七尾市郊外にレストランとしてオープンしたが、2020年10月に移転、1日1組限定のオーベルジュとして第二章をスタートしたのだ。移転先に選んだのは旧塩津海水浴場跡地、そこは閉鎖されたあと誰も来なくなった海水浴場跡地だった。

VilladellaPace_ph04(写真)「ヴィラ・デラ・パーチェ」のオーナーシェフ 平田明珠氏。

海辺に残されていた建物を改装した新生「ヴィラ・デラ・パーチェ」はなによりも眺めが素晴らしい。内海である七尾湾はまるで湖を思わせるように静かなさざなみが立ち、荒々しい日本海のイメージとは全く事なる。「ヴィラ・デラ・パーチェ」とは「平和な宿」という意味だが、平田氏が店名に込めた理由は七尾湾を眺めてみるとよく分かる。人気のない海岸はまるでプライベートビーチのようで、美しい景色を見ながら美食を楽しむ、実に平和なひと時を過ごすことができるのだ。

「ヴィラ・デラ・パーチェ」には一組限定のゲストルームがあり、平田氏が朝食も準備してくれる。野菜の残りを使ったミネストローネなど、無駄を出さない精神はオーベルジュのスタイルでこそやりやすいともいう。
maz_ph2(写真)レストラン棟に隣接する宿泊棟には、1室限定のゲストルームがあり、レストラン同様、海辺の景色が望める静かなロケーション。




イタリアのフィルターを通した個性的な能登イノベーティブ料理。

maz_ph2(写真)ブーケのように可憐なアミューズ。

平田氏の料理は能登の食材を縦横無尽に組み合わせ、イタリアというフィルターを通したオリジナルのイノベーティブ料理だ。最初に登場するのが、さまざまな野菜やハーブで作った一口サイズのハーブのブーケ。その可憐さ、美しさもさることながら、その日の食材の新鮮さをまず味わってほしい、そんな意気込みが感じられる。
maz_ph2maz_ph2(写真)左:「鮑 トウモロコシ」 右:「ガスパチョ 赤烏賊」。下:「甘鯛 じゃが芋」。

地元七尾産の白いとうもろこしを使ったスープには7時間蒸した七尾の鮑と加賀名物の金時草。その自然な甘さがなんともいえず、続く料理への期待を高めてくれる。冷たいガスパチョ仕立ての赤イカのタルタルは、甘さが際立つ黄色いミニトマトや茗荷、玉ねぎ、ナスタチウム、フェンネルの花、またたびとさまざまな地元の香りが楽しめる料理。鱗焼きにした甘鯛にはシークワーサーで味付けしたおかひじきに新じゃがと玉ねぎの粗いピューレ、七尾の魚醤いしるを使ってある。

maz_ph2maz_ph2(写真)上:「タリオリーニ 岩牡蠣 蕨」 下:「カンネッローニ 鮎」 。

次に登場したのが最初のパスタで、牡蠣を使ったタリオリーニ。軽く蒸した七尾の牡蠣は旨味もミネラル感も濃すぎない綺麗な味わい。これに手打ちの細いタリオリーニと裏山で獲ったというほろ苦い蕨のペースト。ワインが進む大人のパスタ。もう一品のパスタは鮎とスイカを包んだ筒状パスタ、カンネッローニ。「鮎を布団でくるんだような料理です」とはサービス担当の塩士ソムリエ。これは内臓ごとコンフィにした鮎をベシャメルと共にパスタ生地で巻き、グラタン状に焼いた料理。鮎のほろ苦さとスイカの甘さ、グラタンの香ばしさ、そして山椒オイルがなんともいえないハーモニー。自然の優しい苦味がどの料理にも見え隠れしている。
maz_ph2maz_ph2(写真)上:「畑」 左下:「ズッパ・ディ・ペッシェ」 右下:「猪 河内豆」 。

40から50種類の野菜を使った野菜料理「畑」はこの日のハイライト。これは能登島の赤土を思わせる皿に野菜やハーブ、花などを40〜50種類使ったサラダでハーブや花に味はつけずに、野菜の味つけは塩かオイルのみ。香り高い野菜やハーブを生む畑そのものを味わう。大地の恵みを味わった後は海の恵みを味わう。「ブロデット」はハマグリ、ムール貝、マルガニ、ガンガンばちめ、オコゼを使ったほんのり辛い魚介のスープ。七尾湾の豊かさそのものをスープにしてある。猪のランプ肉は炭火でローストし穴水の河内豆とマスタードが添えてあった。最後のデザートがまた衝撃的で、青梅のグラニータと青紫蘇オイル、マスカルポーネという組み合わせ。青梅が爽やかでコクのあるマスカルポーネと好相性、日本酒にもよくあう。

maz_ph2(写真)左:「茄子 チョコレート」 右:「青梅 マスカルポーネ」 。

目の前の海でとれた魚介類に裏山で採れた山菜など、地元の食材を使った七尾ガストロノミーは評価も高く、2021年度版のミシュラン石川・金沢では一つ星に加え、サステイナブルレストランを表すグリーンスターにも選ばれているほど。平和で美味なる時間を求めるなら遠方からでも行く価値がある

Photo&Text Masakatsu Ikeda


 北陸オーベルジュ特集 
Vol.01 「L'évo」|富山県利賀村
Vol.02 「Auberge“eaufeu”」|石川県小松市
Vol.03「Villa della Pace」|石川県七尾市
Vol.04「湯宿 さか本」||石川県珠州市

restaurant information


0-4 Auberge eaufeu(ヴィラ・デラ・パーチェ)

住所:石川県七尾市中島町塩津乙は部26-1
Tel:0767-88-9017
定休日:水曜日、木曜日
ランチ、ディナー
1泊2食付き 38,500円(税込) コース15,000円(サ別)


profile


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池田匡克 ジャーナリスト、イタリア料理愛好家

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。WebマガジンSAPORITA主宰。
イタリアを味わうWebマガジン「サポリタ」
http://saporitaweb.com//
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