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OMO5金沢片町」から、山代温泉の「界 加賀」へ。「界 加賀」の最寄り駅は、JR金沢駅から特急に乗り換え25分の加賀温泉駅だ。そこから、タクシーで10分強の距離にある。北大路魯山人をはじめとする数多くの文化人に愛された、1624年創業の老舗旅館「白銀屋(しろがねや)」の歴史を受け継ぎ、2015年12月「界 加賀」として生まれ変わった。

「界」ブランドは、星野リゾートが全国に展開する「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトにした温泉旅館ブランド。2022年10月現在、全国21か所に展開しているが、この後も続々と新しい施設のオープンを控えている。
その場所その季節でしか体験できないおもてなしは、星野リゾートの宿泊施設全体に共通するフィロソフィーだが、「界」はとりわけその傾向が強く、その地域の伝統文化や工芸を体験する「ご当地楽」や、地域の文化に触れる客室「ご当地部屋」を特徴としている。

山代温泉に佇む紅殻格子の一軒は、国の有形文化財sen

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「界 加賀」は、約1300年前に高僧・行基が発見したとされている、山代温泉にある。真っ先に目に飛び込んでくるのは、山代温泉のランドマークにもなっている、紅殻格子(べんがらごうし)の建物だ。朱く塗られた格子が印象的な、こちらの建物は、国の有形文化財にも登録されている。

この伝統建築棟の奥に新築した、8階建ての建物(宿泊棟)に配されている全48室の客室は、そのすべてが、客室の随所に加賀水引や加賀友禅などの伝統工芸が散りばめた、ご当地部屋「加賀伝統工芸の間」となっている。たとえば、ベッドライナーは加賀友禅。ベッドスペースとリビングスペースを仕切る襖にも、さりげなく加賀水引が施されていた。九谷焼の急須や茶器は、「界 加賀」オリジナル。
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館内着の作務衣に着替えたら館内の散策に出かけよう。宿泊棟の1階には、茶室のある茶庭に面した、トラベルライブラリーがある。窓の向こうに見える茶室は、魯山人が好んだことでも知られる「思惟庵(しいあん)」だ。こちらも国の有形文化財にも登録されている。
shiroiya_ph04 なお、この茶室を20分間ひとりで貸し切ることができる「独服体験」(1,500円)というアクティビティもある。自分のためだけに淹れたお茶を、楽しむことができるというもので、柄杓で釜からお湯をすくい、急須に入れるというのも初めての体験だ。わずかな時間でも、ぼこぼことお湯の沸く音だけがする静謐な空間で、自分自身とじっくり向き合う時間を持てたことで、背筋が少ししゃんとしたような気がした。「金継ぎ」(器の破損部分に漆を塗って接着し、金粉で装飾して仕上げる修復技術のこと)で修復が施された、九谷焼の湯飲みの美しさにも魅せられる。

「界」ブランドならではの究極の“ご当地文化体験”sen

「界」ブランドが、2021年にスタートした、「手業(てわざ)のひととき」と題した、究極の“ご当地文化体験”に参加した。こちらは、地域の文化を継承する職人や作家、生産者と連携し、宿泊者はその希少な技に間近に触れることができる、とびきりのご当地体験。「界 加賀」で体験できるのは、例えば「山中塗の木地師があつらえた無垢の酒器で日本酒を味わう体験」(11,000円、7日前までに要予約)だ。
shiroiya_ph07宿から車で20分ほどの「工房 なかじま」へと足を運び、好きな酒器の形を選ぶと、木地師の方がろくろを回しながら形を整えてくれる。その熟練の手業を間近で見学できるのだ。リクエストも受け付けてくれるが、筆者は木材があっという間にぐい呑みへと変わっていく見事な手業に圧倒され、リクエストする余裕もなかった。整えられたばかりの器は、手触りもなめらかで木目も美しい。本来の流れでは、この後、漆を塗っていく過程に入るが、筆者が体験したプランでは、夕食時に、塗りを施す前の無垢の酒器で一献いただけるというのがひとつの売りになっている。実際に石川を代表する蔵元のひとつである福光屋の「加賀鳶」をこの酒器に入れ、口に含んでみると木の新鮮な香りが鼻腔をくすぐり、得も言われぬ味わいを感じさせてくれた。その後、酒器は一度預け、好みの漆の色(茶色・朱色・黒色から選択)を選ぶと、後日、自宅に送られてくるという流れになった。2週間後、東京の自宅で再会したマイ酒器は、雅な加賀の空気をまとっていて、早速、日本酒を入れてみれば、自宅で飲む安価な日本酒も酒器マジックで、美味しくいただけたのである。

北大路魯山人の料理哲学を体現した、“器と料理のマリアージュ”sen
shiroiya_ph07「界 加賀」でのお料理は、「器は料理の着物」と唱えた美食家・北大路魯山人の料理哲学を体現した、“器と料理のマリアージュ”がテーマになっている。特製の九谷焼の小箱で供される八寸や、のどぐろと共に炊き上げた土鍋ごはんなど、見目麗しく食べ応えも抜群の料理が続々と登場する。台物の「鮑の若布包み蒸し」にも大興奮。鮑が餌にしているという若布で、鮑を包み蒸し上げたインパクト大の逸品だ。鮑はもちろんだが、若布の美味しいこと! 鮑になった気分で、むしゃむしゃといただいてしまう。「界 加賀」特製の五郎島金時を使用したデザートまで、加賀の恵みを心ゆくまで感じられる会席だった。ちなみに冬はズワイガニが登場するのだそう。

旅をとことん盛り上げる「界 加賀」の趣向を凝らしたおもてなしsen

夕食後も楽しみは続く。“ご当地楽(ごとうちがく)”は、「界」ブランドすべての施設で提供している、それぞれの地域の特徴的な魅力が楽しめるおもてなし。施設ごとに、伝統工芸、芸能、食など、趣向を凝らした体験が無料で楽しむことができるのだ。「界 加賀」では、毎夜、金沢市の無形民俗文化財にも指定されている加賀獅子舞を、独自にアレンジして上演している(写真下左)。宿のスタッフが演じているのだが、これが大迫力。
shiroiya_ph07 名湯を誇る山代温泉も「界 加賀」での憩いの醍醐味。とろりとした泉質で「美人の湯」とも言われていている湯は、「九谷の湯」と名付けられた大浴場(写真上右)で楽しめる。内風呂の壁面には、加賀の四季を表現した九谷焼のアートパネルが組み込まれており、また、露天風呂の天井には月を模した照明も。加賀の伝統をいかした、アート鑑賞しながら湯浴みができるのは、「界 加賀」ならではの体験だ。また、宿から徒歩1分の距離にある、共同浴場「古総湯」にもぜひ足を運びたい。

その地ならではの伝統工芸を最大限に用いた設え、その地に伝わる伝統食をいかした料理、ご当地楽をはじめとするアクティビティなど、旅をとことん盛り上げる演出に、現代のエッセンスを融合させるのは、「界」ブランドが得意とするところ。「界 加賀」は、さらに、前身の「白銀屋」が1624年の創業した当時の面影を残す、歴史的建物の魅力が加わる。心身ともにリフレッシュし、チェックアウトした後は、「界」のスタッフもおすすめだという地元の寿司屋「亀寿司」で、地の魚と日本酒に舌鼓を打った。

text by Aya Hasegawa

information


FD_02©Shinya Kigure
界 加賀

所在地:石川県加賀市山代温泉18-47
Tel:050-3134-8092(界予約センター9:30〜18:00)