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(写真)「セーナ オブトシフォリア」のイノシシと4種の大根、3種の人参を使ったメイン料理。
オランダやポルトガル、中国など古くから海外との交易で栄えた文化都市長崎では、食の分野においてもテンプラやカステラに代表される外国の影響をうけた料理や菓子が多い。しかし近年ではそうした文化的バックグラウンドからの影響はもちろんのこと、豊かな自然=テロワールを生かした長崎ならではの長崎でしか食べられないレストランの活躍が顕著だ。いわば長崎ローカルガストロノミー最前線、長崎で注目のレストランを紹介したい。

自ら育てた野菜を調理し、大村テロワールを最大限に表現
「SENNA OBTUSIFORIA セーナ オブトシフォリア」
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fukui_01ph01(写真)オーナーシェフの西野徳通氏は大村市で1日1組限定のレストランを営む。

諫早駅からタクシーを走らせること約20分、途中藪が生い茂った細い道を通り、周囲に人家も見えなくなって「果たしてこの道で本当にいいのか?」と不安になり始めた頃、一軒家レストラン「セーナオブトシフォリア」に着いた。オーナーシェフ西野徳通氏が自ら設計したコンクリート打ちっ放しの2階建、周囲にある畑も西野シェフ自ら開墾したものだ。

fukui_01ph01fukui_01ph01(写真)上左:3ケ月熟成させたカボチャとムカゴのスープ。上右:カゴカキダイ、ルコラ、春菊、ブダイ。下:畑で野菜を育て、米も作る西野シェフ。野菜をいかに美味しく提供するかを常に意識。

建築を専攻した西野シェフは大村の地に自邸を建て、竹林を切り開いた畑で野菜を育てるようになると農業の深さに傾注してゆく。その野菜をゲストに食べてもらいたいという想いから九州のレストランで修行を始めたというユニークな経歴の持ち主だ。それだけに自ら育てた野菜や地元産の食材に対する情熱と知識は人一倍強く深い。季節の食材を極力シンプルな調理法で提供する「1日1組」のみというスタイルを貫いている。
fukui_01ph01(写真)自家製の米を使ったムツの握り寿しはレモン胡椒とクレソンがアクセント。

店名は周囲に自生している決明子(けつめいし)という薬草の学名だ。お任せコースで最初に出されるのがこの決明子のお茶。小村テロワールをまず感じて欲しいという無言のメッセージが強く込められている。自ら栽培した野菜や米、長崎産の魚やジビエといった豊かな食材が次々に三川内焼の器に盛られて登場する。窓の外に見えるのは陽光を反射してきらめく、大村湾の静かな水面。「セーナオブトシフォリア」での時間は実に静かに、緩やかに流れていく。

information


fukui_01infoSENNA OBTUSIFORIA(セーナ オブトシフォリア)

所在地:長崎県大村市日泊町398-4
Tel:0957-51-1260
URL:https://sennaobtusifolia.com/


建築家・隈研吾氏デザインのリゾートで長崎随一の夜景を望む。
ガーデンテラス長崎ホテル&リゾート
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fukui_01ph01(写真)隈研吾氏設計のテラスから1000万ドルの長崎の夜景を見下ろす。

長崎市は港を取り囲むすり鉢状の地形が独特の夜景を作り出し、現在ではモナコ、上海と並ぶ世界三大夜景として世界的に名高い。そんな長崎の夜景が思う存分堪能できるのが高台に位置する「ガーデンテラス長崎ホテル&リゾート」だ。設計は世界的に有名な建築家の隈研吾氏。テラス付き客室やインフィニティプールなど、その眺めがどこからでも堪能できるようになっているが、美食と夜景のコンビネーションを楽しむならばメインダイニング「フォレスト」に勝るロケーションはないだろう。
fukui_01ph01(写真)冷たい前菜は長崎産真鯛と柿のマリネ,金柑のソース。

fukui_01ph01(写真)クスクスとカジキのトマト煮のアミューズ。

元来世界に向けて開かれた唯一の窓だった長崎は、そのグローバルな食文化を今に受け継いでいる。「フォレスト」料理長の中川徳之氏は長崎の旬を皿の上に表現するために、新鮮な長崎の野菜の力を引き出して季節を表現することを心がけている。前菜でも魚料理でも肉料理でも、料理の主役はあくまでも季節の野菜。それぞれの味や香りを考慮しながら調理法や味付けなど、つねに最適解を料理を通じて提案している。

fukui_01ph01(写真)左:イトヨリのポワレ、レモンバターソース。右:和牛のサーロイン、レフォールソース。

「クスクスとカジキのトマト煮」や「白菜のポタージュ」は野菜の旨味が心地よく、「島原鶏とフォワグラのパイ包み焼き」や「イトヨリのポワレ、レモンバターソース」ではメイン食材が持つ奥深い味を野菜がうまく引き出してくれる。そうした一連のコースメニューは長崎の夜景のように美しく、かつ美味。美食を五感で堪能したいならば窓際の特等席を予約したい。

information


fukui_01infoガーデンテラス長崎ホテル&リゾート レストラン「フォレスト」

所在地:長崎県長崎市秋月町2-3 ガーデンテラス長崎ホテル&リゾート グランドテラス2階
Tel:095-864-7775(直通 10:00〜21:00)
営業時間:ランチ11:00〜14:00(L.O.)15:00閉店
ディナー17:00〜21:00(L.O.)22:00閉店


五島列島の豊かな自然に囲まれた一軒。
GOTO TSUBAKI HOTEL
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長崎県西部に位置する五島列島は大小あわせて152の島からなり、それぞれの島が持つ複雑な地形ゆえに列島のほぼ全域が西海国立公園に指定されているほど。また世界遺産に登録されている「長崎と天草の潜伏キリシタン関連遺産」の一部としてカトリック教会があちこちに点在する、長崎にとっては重要な歴史に彩られた島々なのだ。また近年では連続テレビ小説の舞台として取り上げられ、観光的にはちょっとしたブームとなっているのだ。
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長崎港から高速船ジェットフォイルに乗ること1時間25分、五島列島最大の島、福江島の福江港に着く。この日の目当ては福江港近くにある「GOTO TSUBAKI HOTEL」内にあるイタリア料理店「TSUBAKI KITCHEN」だ。
fukui_01ph01(写真)明るくスタイリッシュな「GOTO TSUBAKI HOTEL」のロビー。

ここでは五島列島産を中心に長崎県産の新鮮な魚介類を使用した五島イタリアンが堪能できるのだ。新鮮なサザエは細く刻んでその歯ごたえを味わい、アジは南蛮漬け風のエスカベーチェ、ヒラマサは柑橘で香りづけ。いずれも五島の海の幸を堪能できる素晴らしい前菜。
fukui_01ph01 fukui_01ph01(写真)上:サザエやヒラマサのカルパッチョなどの前菜盛り合わせ。下:長崎県産ボラのカラスミのスパゲッティ。

長崎名物のボラのカラスミを使ったスパゲッティはネギの食感がアクセント。鯛の白ワイン蒸しはアイヨリに似た酸味あるソースでいただく。最後は長崎牛のステーキで季節の野菜を使った付け合わせも実に新鮮。五島の新鮮な食材を味わい尽くすメニューはそれぞれ「アクア(水)」「マーレ(海)」「ソーレ(太陽)」と名付けられており、五島の自然を表している。長崎港から足を伸ばし、そこでしか味わえない料理目当てに五島列島を訪れる優雅な休日。ローカルガストロノミーとの新たな出会いを求め、美食の国、長崎を旅したい。

information


fukui_01infoGOTO TSUBAKI HOTEL「TSUBAKI KITCHEN」

所在地:長崎県五島市栄町1₋57
Tel:0959-74-5600
営業時間:7:00~9:00 バイキング
11:30~14:00 アラカルト/セットメニュー
17:30~21:00 アラカルト/コースディナー


>> 長崎ロマンを巡る旅へ|平戸・佐世保編へ。

text by Masakatsu Ikeda
取材協力:長崎県