去る2023年3月28日、アジアで最も優れたレストランを決定するアワード「アジアのベストレストラン50」2023年度ランキングが発表された。同ランキングはジャーナリスト、評論家、シェフ、レストラン経営者など300名以上の評議員が投票して決定される、現在のレストラン業界の動向を決定づける最も権威あるアワードのひとつ。 会場となったのはシンガポールのリゾート・ワールド・セントーサ。アジアを代表するシェフやジャーナリストらが一同に会した華やかなイベントは、コロナ禍以来実に4年ぶりのリアル開催だった。

昨年は「傳」が念願のアジア第一位に輝くなど、日本勢大躍進が顕著だったが果たして今年はどうなるのか?シンガポールでの発表の様子は銀座「サルヴァトーレ・クオモ」にて関係者を集めてシンガポールの様子を同時中継する形で開催された。

日本勢としてはまず60位に「レヴォ L'évo」が初めてランキングするとどよめきがおこった。「レヴォ」は昨年も紹介したが富山県の山奥にあるオーベルジュで、その土地でしか再現できない食材を使った独自の料理感が注目を集めている。
asia502023_01(写真)44位で「アイコン賞 (Icon Award)」を受賞した「レフェルヴェソンス(L'Effervescence) 」の生江史伸シェフ。

44位は先日「アイコン賞 (Icon Award)」を受賞した生江史伸シェフ率いる「レフェルヴェソンス(L'Effervescence) 」。次いで32位に京都の「チェンチ (Cenci)」がランクイン。同店は昨年43位に初めてランクインしたがさらに順位をあげたことになる。オーナーシェフの坂本健氏はいま日本のイタリア料理界で最も勢いのあるシェフといっていいだろう。20位以内になると日本のレストランが続々と登場。まず20位に「オード(ode)」、14位「ヴィラ・アイーダ(Villa Aida)」、12位「茶禅華」と続く。

圧巻はベスト10で、なんと日本勢は5軒がランクインと実に半数を占める躍進ぶりだった。10位は常連「NARISAWA」、8位は大阪の「ラ・シーム(La Cime)」、7位「フロリレージュ(Florilege)」。同店の川出寛康シェフは「シェフズ・チョイス賞」も受賞した。そして4位に「」。昨年のアジア1位からランクダウンしたことは残念だが、それでも世界レベルの高評価を得ている点はさすが、のひとこと。

asia502023_01(写真)日本最高位は2位の「セザン(Sezanne)」。

2023年度の日本最高位に位置したのは2位の「セザン(Sezanne)」。2021年7月に開業以来わずか1年半の間にミシュラン2つ星、そして「アジアのベストレストラン50」日本最高位と、現在の日本を代表するレストランとなった。シェフのダニエル・カルバート氏は香港「ベロン」のシェフとしてすでにアジア4位に輝いた経歴があるが、今回で自己最高位を更新したことになる。

そして栄誉ある第1位に輝いたのはバンコクの「ル・ドゥー(Le Du)」でタイ家庭料理を分解再構築、かつて誰もやったことのないレベルにまで押し上げたタイ人シェフ、ティティド・タサナカジョン氏でNYの「イレブン・マディソン・パーク(Eleven Madison Park)」「ジャン・ジョルジュ(Jean Georges)」といった3つ星レストランでキャリアを磨いたタイ料理界が世界に誇るスターシェフだ。コロナ規制がようやく終焉を迎え、この春は日本においても外国人旅行者が活発に訪問するようになっており、今年の日本のレストラン界は数年ぶりに忙しくなることは間違い無いだろう。来年は再度日本のレストランがアジア最高位の座に返り咲けるよう、期待を持ってこの一年に注目したい。

text by Masakatsu Ikeda

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池田匡克
ジャーナリスト/イタリア国立ジャーナリスト協会会員

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。2023年「ITALIAN WEEK 100」のディレクターに就任。