(写真)左から、アントニオ・ダンジェロ氏、アルベルト・アドリア氏、カルミネ・アマランテ氏。3人のトップシェフが銀座に集結した。

銀座にある「アルマーニ / リストランテ」は、ガンベロロッソのシェフオブザイヤーにも輝いたことがあるカルミネ・アマランテシェフ率いる最高級イタリアン・レストランだ。カルミネ氏は従来から一般流通に乗りづらい食材をメニューに取り入れるなど意欲的な活動を続けているが、2023年は世界のトップシェフを「アルマーニ / リストランテ」に迎えたコラボレーション・メニューに取り組み始めた。 これは東京はじめNY、ミラノの「アルマーニ / リストランテ」と「ノブ ミラノ」が舞台となる世界巡回のガストロノミー・イベント「アルマーニ・レストランツ・インシエメ」の一環で、記念すべき第一回は4月20日と22日の両日、他都市に先駆けて東京で開催された。

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注目のゲストシェフはバルセロナの予約困難店「エニグマ」オーナーシェフであるアルベルト・アドリア氏。アルベルト氏はかつて新スペイン料理=ヌエヴァ・コシーナ・エスパニョーラで一世を風靡した「エル・ブジ」フェラン・アドリア氏の弟で、「エル・ブジ」最盛期にはフェラン氏の右腕として世界最高峰のレストランを支えた経歴を持つ。その後独立してからも「チケッツ」「エニグマ」など常に話題となるレストランを次々にオープンし、世界規模で活躍するトップシェフの一人だ。さらに今回はミラノからアルマーニ / コンプレックス内にあるフュージョン和食「ノブ ミラノ」でシェフを務めたのち、ミラノ本社のコーポレートシェフに就任したアントニオ・ダンジェロ氏も来日。銀座に3人のトップシェフが集うという実にゴージャスなイベントとなったのだ。

(右写真)今回のイベントのために特別に来日した、スペインを代表するシェフ、アルベルト・アドリア氏。

実はアルベルト氏に会うのは「エルブジ」以来20年ぶりになる。当時は30品近くの料理を4時間かけて味わったり、厨房で一緒に賄いを食べた思い出があるのだが、そんな昔話をするとアルベルト氏は笑って出迎えてくれた。

この夜の料理は3人のシェフによるフォーハンズならぬシックスハンズで、3種のデザートを含む合計16品。主役はゲストシェフのアルベルト氏でカルミネ氏とアントニオ氏が脇を支えるイメージか。次々に登場した一口サイズの料理は時にユーモアに富み、時に伝統料理の香りを感じさせる硬軟取り揃えたラインナップ。アルベルト氏は日本の食材やストリートフードを上手に取り入れつつイタリアのエッセンスも加えるという達人ぶり。一方ホスト役である2人のイタリア人シェフはスペインの要素を取り入れた返歌を思わせるようなやり取り。イタリアとスペインという地中海を挟んだ2大料理大国ががっちりと肩を組んだ、そんな印象の料理の数々だった。
faro01faro01faro01(写真)上:「烏賊 ラード 雲丹」、中段左:「蛤 鴨出汁 シナモン スナップえんどう」中段右:「鰻燻製 小豆 林檎」下段左「大根 ″コシード″」下段右「バジル蕎麦 トマトポン酢 フリーズドライ モッツァレラ」

例えばアルベルト氏がこの夜作ったのは日本の新鮮な魚介類にイタリア産豚の脂身の塩漬けを組み合わせた「烏賊 ラード 雲丹」。どの食材も加熱せずに、純粋に上質な食材のハーモニーを味わう。「豆乳ブッラータ そら豆」は中部イタリアの春を思わせる料理だ。ブッラータはアルベルト氏の自家製でわざわざスペインから持ってきた。イタリアへのリスペクトが見え隠れしている。一方日本的な遊びを取り入れた料理も非常に印象に残った。「大根 ″コシード″」はマドリード伝統の煮込み料理コシードを大根で再現。その見た目は思わずくすりと笑ってしまうようなおでんそのものなのだが、大根の中には上質のコンソメが忍ばせてあった。「バジル蕎麦 トマトポン酢 フリーズドライ モッツァレラ」は日本の蕎麦とイタリアの三色旗である緑=バジル、赤=トマト、モッツァレラ=白」を組み合わせたパスタ料理。デザートにも「醤油アイスクリーム 海苔」が登場するなど、日本の食材や調味料を、手を替え品を替え、様々な角度から味合わせてくれたその探究心にはただ脱帽。
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(写真)上左:「白アスパラガスタルト ベルネーズフォーム クリスタルキャビア」上右:「自家製ブレザオラ ブリオッシュ シトラス」下:「リゾディセモラ サフラン」

一方ホストシェフたちの料理も見応え、食べ応えがあった。「自家製ブレザオラ ブリオッシュ シトラス」はカルミネ氏の十八番で、北イタリアの保存食であるブレザオラを和牛で再現した自家製。アントニオ氏が作った「海苔タコス ハマチのマリネ」は日本とスペイン&メキシコの合体技。白眉だったのはカルミネ氏による「リゾ・ディ・セモラ サフラン」で、見た目はこれもカルミネ氏の得意料理であるミラノ風サフランリゾットなのだが、実は米の代わりに米粒状の小さなパスタ「リゾーニ」を使ってある。スペインでは有名な米料理パエリアのパスタバージョンともいえる「フィデウワ」という料理がある。これは米の代わりに細くて短いパスタを使い、パエリア状に仕上げたもので麺パエとも呼ばれているのだが「リゾディセモラ サフラン」はその逆パターン。米粒パスタをリゾット風に仕上げ、パエリアとリゾットの共通項でもあるサフランが芳しい。美味なる料理が次々に登場したこの夜のハイライトだった。
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(写真)上:「鹿肉 パンチェッタ マスタード ベビーレタス」下左:「オレンジ ゼラチン フレッシュ山葵」下右:「醤油アイスクリーム 海苔」

「アルマーニ・レストランツ・インシエメ」は東京でスタートし、今後ミラノ、NYと巡回する予定。アントニオ氏によれば「ここ数年コロナで海外でのイベントができなかったので、今回東京に来れてとても嬉しい。カルミネもわたしもやる気満々ですよ」と話してくれた。2023年はより精力的に活動する「アルマーニ / リストランテ」の動向に注目したい。

text/photo by Masakatsu Ikeda

restaurant information


GA TOKYO GINZA TOWER (14)アルマーニ / リストランテ(東京)

住所:東京都中央区銀座5-5-4 アルマーニ / 銀座タワー 10階&11階
Tel:03-6274-7005
Lunch 11:30~15:00 (L.O.14:00) Dinner 18:00~23:00 (L.O.20:30)
定休日:月曜日・日曜日
https://www.armani.com/

Armani Restaurants Insieme今後の開催予定
2023年6月12、13日「ノブ ミラノ&アルベルト・アドリア」
2023年9月26、27日「アルマーニ / リストランテ ニューヨーク&アルベルト・アドリア」
※開催日は変更になる可能性あり
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池田匡克
ジャーナリスト/イタリア国立ジャーナリスト協会会員

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。2023年「ITALIAN WEEK 100」のディレクターに就任。