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素材の味を活かしながらも色鮮やかに、心にも体にも嬉しい食事を楽しめるイタリアン。新しい季節、春の訪れを感じさせる都心の絶品イタリアン3選をご紹介。

#新富町「PRIMO PASSO(プリモ パッソ)」
11皿のコースのうち5皿がパスタ、イタリア料理の根幹へのリスペクト



jinmo01(写真)左:「カッペリーニ 毛蟹」 右:「メジマグロ 蕪」

イタリア・ナポリ近郊にあるミシュラン3ツ星「クアットロパッシ」でパスタ場を任されていた若き料理人藤岡智之氏が2021年に帰国、昨年新富町にオープンした「プリモパッソ」のシェフに就任した。急な階段を降りていくと8人掛けの長いカウンターがあり、藤岡シェフはその中央で全ての調理を一人で行う。11品から成るメニューは、そのうち実に5品がパスタであり、藤岡シェフがイタリア料理の根幹であるパスタにかける意気込みがメニューを眺めただけでひしひしと伝わってくる。

藤岡シェフはまず生ハムスライサーのフェラーリとよばれるベルケル社製のスライサーを使って生ハムをごく薄切りにスライス。これをリコッタ、スカモルツァ、パルミジャーノという3種のチーズを詰めた揚げピッツァ、パンツェロッティの上にふんわりと盛り付けてくれるのだ。冷と温、塩と甘のしびれるコントラスト。すると間もなく最初のパスタが運ばれてくる。美しいカクテルグラスの中には北海道産毛蟹を使った冷製の極細パスタ「毛蟹とカッペッリーニ」。昆布と蛤の出汁に花穂紫蘇、佐賀海苔という和のエッセンスの組み合わせ。第二のパスタは子持ちのヤリイカにカラスミ、あおさ海苔、レモンを使った「タリオリーニ ヤリイカ 檸檬」さらに北海道のバフンウニをトマトソースにした「リングイネ 雲丹」という小気味いいテンポでパスタが続く。

FD_02(写真)藤岡智之シェフ。
リゾットは「ななつぼし 林檎 冬トリュフ」のリゾット、さらに口直しがわりの「生ハム メロン ミント」、「十勝ハーブ牛」の後、最後に登場したのが「カプチーノ」だ。これはコーヒーカップにミルクフォームたっぷり、見た目はまさにカプチーノなのだが、その下には蛍いか、大葉、卵黄、柚子胡椒を使った手打ちパスタタヤリンが隠されている。

パスタはイタリア料理の花形だが、藤岡シェフは手を替え品を替えて、11品のメニューのうち5種類のパスタを出す。とはいえ一皿のポーションは全てほんの一口サイズなので5品食べても合計で120〜130グラム程度。満足感はあっても食後感は意外と軽く、もう一皿ぐらい食べたいという心地よい余韻が残るのも、藤岡シェフがコースの流れを熟慮しているからこそ。新進気鋭のカウンターイタリアンに誕生だ。

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PRIMO PASSO(プリモ パッソ)
住所:東京都中央区築地1-5-11 ACN築地ビルB1F
電話番号:03-6826-9672
営業時間:17:00~23:30(17:00〜と20:30〜のコース予約のみ)
定休日:水曜日
#参宮橋「ORCHESTRA(オルケストラ)」
オルケストラ、それは料理が奏でる交響曲



sugano01(写真)ピアノの白鍵と黒鍵に見立てた白と黒の器で登場するアミューズ「お楽しみ5種」。

FD_02(写真)小川慎二シェフ。
2023年9月参宮橋にオープンした「オルケストラ」はカウンター8席のみのレストラン。どの席からも見えるのは厨房の中央でキビキビと動く小川慎二シェフと、その背後にある炎ゆらめく薪ストーブ。店内には香ばしい薪の香りが漂い、これから登場するであろう美味なる料理への期待が高まる。長崎出身の小川シェフは「長崎ハウステンボス」でフランス料理を経験した後に渡伊。モデナの1ツ星「リストランテ ストラーダファチェンド」の後、イタリアを代表する名店「リストランテ・サン・ドメニコ」の厨房に入る。同店では5年間勤務し、後半にはスーシェフも務めたキャリアの持ち主だ。

その小川シェフが「オルケストラ」で奏でるのは交響曲に見立てた料理の数々。ピアノをイメージした黒い小箱をそっと開くと、「PROGRAMMA=演目」と書かれた本日のメニューが現れる。序曲となるのは「トルテッリーニ イン ブロード」。エミリア・ロマーニャで過ごした小川シェフの挨拶代わりのスープパスタは焼きあご、生ハム、パルミジャーノでだしを取り、一口サイズの詰め物パスタ、トルテッリーニとともに優しく胃を温めてくれる。アミューズ「お楽しみ5種」はピアノの白鍵と黒鍵に見立てた白と黒の器にキャベツとヒラメ、アワビのフリット、アコヤガイのトルタ、山羊バーガーのジェノヴェーゼ・ソース、生ハムとブリオッシュ。熊本の馬肉はイタリアの魚醤コラトゥーラでマリネしてホワイトアスパガラスと一緒にタルタルに。

ハイライトは「ラヴィオーロ リコッタ 法蓮草 卵黄 黒トリュフ」だ。これは「リストランテ・サン・ドメニコ」の代表的料理のひとつで、小川シェフはゲストの前で生地を作り、法蓮草とリコッタ、卵黄を詰め物にしてひとつずつ丁寧に茹でる。直径10センチほどのラヴィオーロ(ラヴィオリの単数系)にフォークを入れると卵黄がとろりと流れ出し、黒トリュフと共に味わう。卵黄とトリュフという黄金の組み合わせに、なめらかなパスタ生地。
sugano03(写真)「ラヴィオーロ リコッタ 法蓮草 卵黄 黒トリュフ」

「オルケストラ」の料理は小川シェフのアイデンティティである「リストランテ・サン・ドメニコ」の料理をハイライトとしながらも、脇を固める数々の料理はアイディアや驚き、ユーモアに溢れていてまさにオーケストラの如く重層かつ軽快な交響曲を奏でる。その主役であるのはソリスト兼指揮者である小川シェフ。オープンキッチン形式のカウンター席に座り、薪ストーブの中でゆらめく炎や、小川シェフが鮮やかな手つきで次から次へと料理を準備する姿を見ながら過ごす時間は、美味なる至福のひとときである。

sugano_infoORCHESTRA(オルケストラ)
東京都渋谷区代々木4丁目1-7 森田ビル 1F
Tel:03-6383-4036
営業時間:ディナー 17:30~23:30
定休日:日曜、月曜を中心に不定休
#千駄ヶ谷「CONVIVIO(コンヴィヴィオ)」
「カチョ・エ・ペペ」に込められたイタリアへの思い



baroom01(写真)「鰆の炙りカルパッチョ」

辻大輔氏がオーナーシェフを務める「コンヴィヴィオ」は住宅とアパレルブランドのオフィスが混在する北参道にある。1階がキッチン、2階がダイニングスペースとなっているので、通りを歩けばガラス窓越しに料理に打ち込む辻シェフの姿が見えることだろう。京都に生まれた辻シェフは20歳で渡伊、トスカーナやミラノ近郊のパヴィアなどで経験を重ねて2006年に帰国。西口シェフの「ヴォーロ・コズィ」や「ビオディナミコ」を経て新宿「コンヴィヴィオ」シェフに就任。2015年に現在の場所に移転してすでに十年になる。 f071fbc1(写真)左:同店名物の「コンヴィバーガー」 右:スペシャリテの手打ちパスタ「カチョ・エ・ペペ」

重厚な木の扉を開けるとオーセンティックかつクラシカル・エレガントなダイニングルームがある。「CONVIVIOでは、イタリアの伝統料理をベースに、新しいエッセンスを加えた驚きのある料理に挑戦して参ります。私のフィルターを通したイタリア料理をぜひお召し上がりいただきたいと思います。」と辻シェフはいう。

辻シェフはフードロス対策としておからをよく使うが「コンヴィヴィオ」の代名詞的存在である手打ちパスタ「カチョ・エ・ペペ」にもおからが練り込んである。ペコリーノトスカーノの豊かな香りと旨味、そしてほのかな酸味にたっぷりの黒胡椒。数あるイタリア料理の中でも一、二をあらそう究極的にシンプルなパスタだがそれだけに食材選びは表現方法も含めて奥が深い。なによりもシンプルこそ美味しいというイタリア料理の規範のような料理である。メインは群馬産の豚肉のローストにビーツのリゾット、レンズ豆の組み合わせ。辻シェフはクラシックなイタリア郷土料理を時に軽快に、またある時はユーモアを加えて現代的に仕上げてくれる。メニューは月替わりなので来月は何がオンメニューするのかと、あれこれ想像を巡らせるのもまた楽しいひととき。

sugano_infoCONVIVIO コンヴィヴィオ
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-17-12 カミムラビル1F
Tel:03-6434-7907
営業時間:ランチ(月〜金)12:00〜14:00(L.O. 12:30)、(土、祝)12:00〜14:00(L.O. 12:00)、ディナー:18:00〜22:00(L.O.19:00)
定休日:日曜、第2月曜
text & photo by Masakatsu Ikeda

profile


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池田匡克
ジャーナリスト/イタリア国立ジャーナリスト協会会員

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。2023年、日本全国の北海道から沖縄まで100店の高級イタリア料理店が参加する大型レストランイベント「ITALIAN WEEK 100」のディレクターに就任。