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広島県庄原市が認定する比婆牛。

神戸牛、松阪牛、米沢牛、宮崎牛など、全国各地にいくつもの和牛銘柄がある。それぞれ血統や飼育方法、飼育期間、枝肉の格付けなどの基準があるが、広島県庄原市が認定する比婆牛をご存じだろうか?

筆者が比婆牛を知ったのは、「広島に比婆牛を食べに行かない?」という健啖家の友人のそんな誘いからだった。そもそも比婆牛とはなんぞや? まずはそこから話を進めよう。

先の話の通り、全国各地にいくつもの和牛銘柄があるが、比婆牛もその一つだ。そして、比婆牛はその基準が厳しい。枝肉の格付けはもちろんのこと、ほかにも、「その牛の父、母の父、母の母の父、のいずれかが広島県種雄牛であること」(ざっくり言うと、三代前までの祖先に広島の血統が入っていること)「庄原市内で生まれ、広島県内で最終最長期間肥育されたこと」なんて基準もある。ほかの地域から連れてきた仔牛を一定期間、生産区域内で飼育すれば、その銘柄を名乗ることができる和牛銘柄も少なくないなか、比婆牛はそれを許していない。血筋にとことんこだわる。出荷頭数も少なく、なかなかお目にかかれる機会も少ない。そしてなんといっても、日本最大蔓牛の岩倉蔓牛をルーツに持つ一級品であることも加わるとなれば、友人のその誘いに乗らないわけにはいかず、筆者は二つ返事で広島へと向かったのだった。



至高の和牛”比婆牛”を食すならこの一軒 「肉割烹 まさ㐂」

広島に到着していの一番に向かったのは、広島市南区の「肉割烹 まさ㐂」だ。広島駅から乗ったタクシーの運転手に話を向けてみたところ、「比婆牛? 聞いたことないなあ」という答えが返ってきた。地元でも知らない人は少なくないようだ。しかし、2023年5月に開かれた先進7カ国首脳会談(G7広島サミット)の夕食会で首脳陣にふるまわれるなど、最近、注目度が高いという情報もあり、これはぜひ本場で食べてみなければと思ったのである。
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比婆牛は、広島県のHPにも書かれてあるように、「脂身が軽く、甘みが多いので深い旨味を味わえる」のが特徴だ。「肉割烹 まさ㐂」では、上質な肉を和食の伝統文化をベースに多彩な調理法のもと、広島の地酒と合わせた逸品を割烹スタイルで提供してくれる。夜のおまかせは3種類。6,600円、8,800円、11,000円のコースだが、筆者は事前に電話で相談し、最も比婆牛の登場回数が多い11,000円のコースを選択(コースの内容は時期や仕入れによって異なる)。喉がなる(笑)、とはいえ、ちょっとした不安もなかったわけでもない。肉割烹とすれば最初から最後まで肉が出てくるはず。アラフィフの筆者はフランス料理のフルコースや、がっつりサシの入ったお肉がツラいお年頃。最後まで美味しくいただけるだろうか。が、結論からいってしまうと難なくすべて美味しく平らげることができたのだった。
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この日はカウンター席で、店主の平賀正樹さんの調理風景を眺めながらのエンタメ性も抜群のディナーだった。さすが肉割烹を名乗っているだけある。「比婆牛リブロースの清汁仕立て」(椀物)、「比婆牛ウチモモの広島レモン焼き」(炭焼)、「比婆牛サーロインと車エビの蕪蒸し」(蒸物)などさまざまな調理法で比婆牛を堪能できた。「比婆牛ウチモモの広島レモン焼き」は、とろりやわらかな比婆牛とレモンのソースの酸味の相性の良さに悶絶だ。〆のお食事、肉寿司にも比婆牛が登場。冷たい状態でも十分旨みが感じられる比婆牛のポテンシャルに改めて驚愕する。平賀さんによれば、比婆牛は脂が上質であること、また、比婆牛が持つオレイン酸は人肌で溶けてしまうくらい融点が低いこともあり、冷製料理はお手のものという。そして、そのオレイン酸の豊富さがくちどけの良さにつながっているそうだ。比婆牛選手、なかなかの万能タイプである。余談だが、比婆牛以外にも前菜にみぞれ煮として出てきた但馬血統の万葉牛も絶品だった書き添えておきたい。

この肉三昧ディナーに合わせる酒は、赤ワインや広島の地酒が用意されている。赤ワインも魅力だったが、比婆牛は豊かな香りとうまみを持つ広島の酒に合うと聞いていた。そしてこれがとてもいい。この日、留椀として供された「広島牛の粕汁仕立て」は、広島県東広島市の酒蔵「西條鶴酒蔵」の酒粕を使ったものだったが、肉の脂身を日本酒の甘みが包み込み、すっきりとのど越しを流れていく。広島県産の幻の和牛、比婆牛と広島の地酒、そして広島の旬の食材とともに、奥深くまで堪能できる一軒だったということは言うまでもない。

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肉割烹 まさ㐂
住所/広島県広島市南区段原1-6-9


日本三大酒処、広島西条で酒蔵めぐり
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翌日は、広島駅から電車で40分ほどの場所にある西条(広島県東広島市)へ足を向けた。広島駅から電車で40分ほどの場所にある西条(広島県東広島市)は、兵庫の「灘」、京都の「伏見」と並び、日本三大酒処に数えられている。お酒造りに適した気候と豊富な地下水の恩恵を受け、大正から昭和にかけて酒造りの街として名を馳せ、今も7つの蔵元がお酒を造り続けているのだ。多くの酒蔵の入り口には、「仕込み水」を汲める井戸もあるので、「仕込み水」の飲み比べも楽しい。

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蔵めぐりをするのにうってつけの西条、なぜならその7つの酒蔵がすべてJR西条駅から徒歩圏内にあるからだ。蔵めぐりとなると、必然的にクルマでの移動が必須となることが多いが、徒歩であれば心置きなく試飲ができるというわけだ。多くの蔵では無料で、もしくは有料で試飲を行っている。赤レンガの煙突やなまこ壁、西条格子など独特な風情を残す街並みも情緒たっぷりで、調子に乗ってはしご酒を楽しんでいたらすっかりほろ酔いになってしまった。最後は、駅前の「酒蔵横丁」で仕上げよう。言わずもがな、の酒飲みのパラダイスだ。「酒蔵横丁」で、飛び込みで入った店で「日本酒が好きならここに行くべし」という日本酒バーを教えてもらったが、あいにくこの日は定休日だったので、「これはまた来いってことね。」と再訪を誓うのであった。

広島市中心地で海外からの賓客をおもてなし「ヒルトン広島」
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最後に、広島市で宿泊した「ヒルトン広島」がすばらしかったことを付け加えたい。2022年10月に開業し、G7広島サミットの際、アメリカのバイデン大統領が宿泊したことで知られる同ホテルは広島駅からはクルマで10分足らず。バス停も目の前にある。繁華街にも徒歩でアクセスできるのもナイスだ。

16室のスイートを含む420の客室には、広島の自然美を取り入れたインテリアが設えられていて、モダンであり、同時に機能性も高い。瀬戸内の海や山などの景観を臨む客室も多く、また、足を延ばせるバスタブもある。快適すぎて、外に出るのが億劫になってしまうのが難点だ。とりあえず筆者はチェックイン後、宿泊のゲストは無料で利用できるプールとサウナで夜の肉三昧に備えたが、さまざまな用途で利用できるホテルだ。
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ヒルトン広島
住所/広島県広島市中区富士見町11-12
Text by Aya Hasegawa