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宮崎県霧島連山 写真提供/宮崎県観光協会
焼酎の生産量9年連続全国一位の焼酎王国である宮崎県。芋はもちろんのこと、麦、米に蕎麦など主原料の多彩さも魅力だ。そして温暖な気候から「日本のひなた」ともいわれる宮崎県は、畜産も盛んで国内ではトップクラスの食料自給率を誇る。前編でもご紹介した宮崎牛だが、言わずもがな焼酎との相性は抜群だ。宮崎を訪れたならこの土地ならではの絶品を味わうほかない! MIYAZAKI ガストロノミックツアー後編は、宮崎が誇る焼酎蔵巡りをお届け。



焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン

宮崎焼酎の蔵巡りも、宮崎観光の面白みだ。真っ先に足を運んだのは、本格芋焼酎「黒霧島」の製造元として知られる、日本を代表する焼酎メーカーのひとつ「霧島酒造」だ。地名の印象から鹿児島県の酒造だと思っている人も多いと推察するが、宮崎県都城の地で100年以上に渡って芋焼酎を作り続けている老舗である。その霧島酒造が、1996年にオープンしたのが、ガーデンパーク「霧島ファクトリーガーデン」だ。敷地内には、本格焼酎の歴史文化を紹介する施設をはじめ、ブリューワリーや地元食材を使用したグルメを提供するレストランなど、さまざまな施設がある。霧島神宮から分霊を受けた「霧島焼酎神社」や、国内トップ選手によるビーチバレー大会も開催される「KIRISHIMA BEACH PARK(キリシマ ビーチ パーク)」もある。オーストラリアから砂を敷き詰めた同パークでは、トップレベルのアスリートによる大会が開かれることもあるそうだ。

artsinhk2-8artsinhk2-8(写真)焼酎製造工場群に現れる真っ白な砂場「KIRISHIMA BEACH PARK(キリシマ ビーチ パーク)」 写真提供/霧島酒造

広大な敷地内には4つの工場があり、工場見学ツアー(無料。要予約)では志比田増設工場で、サツマイモが焼酎になっていく過程を、順を追って案内してくれる。宮崎県で製造される多くの芋焼酎の原料となるのは、「黄金千貫(こがねせんがん)」という名のサツマイモだ。ガラス越しにこの黄金千貫が蒸されているところを見たが、普段食べているサツマイモのイメージとはかけ離れた見た目に驚く。撮影はNGだったので興味があれば検索してみてほしい。白く、形状もどちらかといえば、サツマイモに近い。試飲の際に蒸したものを試食させてもらったが、繊維質はたっぷりだが、少し水っぽく甘みは少ない。
artsinhk2-9(写真)工場見学ツアーの様子 写真提供/霧島酒造

なお、敷地内には霧島酒造が昭和30 (1955) 年に掘り当て、焼酎やクラフトビールの仕込み水となっている天然水「霧島裂罅水(きりしまれっかすい)」を無料で持ち帰ることができる給水場所がある。クルマでポリタンクを何本も持って水を取りにやってくるガチ勢がほとんどで、「ちょっと飲んでみようかな」レベルの観光客には少しばかりハードルが高いが、霧島山脈と大地の恵みによって磨かれた裂罅水のまろやかさを味わってみたい。

売店には工場限定品の焼酎など、レアものが手に入る。筆者は地元の人々から「本格霧島(愛称:本キリ)」の名前で愛されている、宮崎県限定販売の白麹仕込みの芋焼酎「霧島」を入手した。焼酎の製造工程で発生する“焼酎モロミ”を使ったパンを作っている「霧の蔵ベーカリー」にも足を運びたい。さまざまな種類のパンが並ぶが、いちばん人気は、県内の塩を使った「塩パン」だ。中心には高千穂産バターをたっぷりと閉じ込めてあり、塩とバターのコントラストがたまらない。常温で食べても美味しいが、軽くトーストすると、中のバターが溶け出してくる。
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焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン
住所/宮崎県都城市志比田町5480




創業当時の土蔵造りを継承する焼酎蔵「古澤醸造」
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(写真)「古澤酒造」では芋、麦、米、そば焼酎とあらゆるラインナップを試飲できる。写真提供/古澤酒造

午後は電話でアポを取り、小さな蔵を見学させてもらうことにし日南市の「古澤酒造」と「小林酒造」へ。日南市大堂津の住宅街「古澤醸造」は、古澤昌子さんが5代目杜氏を務めている。創業は1892年(明治25)5月。県内で唯一、創業当時からの土蔵造りの醸造蔵で昔ながらの焼酎造りを継承している。2009(平成21)年に、建てたという、飫肥杉を使った貯蔵蔵も見学させてもらった。この飫肥杉の蔵と、もともとある土蔵造りの蔵で貯蔵・熟成させている。完全に地中に埋めずに、上半分程度が地上に出ている仕込み甕も印象的だった。土壁の効用で、蔵内部の温度が低く保たれているからこその効用だ。たしかに、このほうが作業効率は高いだろう。見学後、さまざまな「古澤醸造」のさまざまなラインナップを試飲させてもらった。芋焼酎が主体だが、麦焼酎、米焼酎、そば焼酎も作っている。筆者は原料芋にパッションフルーツを連想させる香りを持つオレンジ系の「ハマコマチ」を使い、ワイン酵母(クリュ・ブラン)で醸した「yaezakura ワイン酵母仕込」を購入。華やかな味わいで、ロックはもちろんソーダ割にも適している。

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古澤醸造
住所/宮崎県日南市大堂津4-10-1


蔵の敷地内に湧き出す名水でチョウザメの養殖をする「井上酒造」
artsinhk2-6(写真)井上酒造では、チョウザメの養殖を行い全国にキャビアを出荷している。

1894(明治27)年創業の「井上酒造」は、1983(昭和58)年に、日本で初めて減圧蒸留100パーセントの芋焼酎「爽 飫肥杉」を生み出した。それまでの芋焼酎の常識を覆す、さわやかで飲みやすい芋焼酎は、宮崎では「さわやか」の相性で親しまれている。そして、同蔵が焼酎・リキュールの仕込みや割水に使う水は、蔵の敷地内に湧き出す「榎原湧水(よわらゆうすい)」。明治の俳人・種田山頭火はこの湧き水を口にした際、その美味しさに感動し、「こんなにうまい水があふれてゐる」と詠んだほど! また、この湧き水を活かして、2012年はチョウザメの養殖をスタート。「日南発(ひなた)キャビア」として全国に出荷している。チョウザメが悠々と泳いでいる姿はクールで、思わず見惚れてしまう。
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井上酒造
住所/宮崎県日南市南郷町榎原甲1326


とにもかくにも宮崎食材の豊富さ、質の高さに圧倒される宮崎への旅だった。餃子(購入頻度、支出金額2年連続全国1位)、辛麺、釜揚げうどん、飫肥の天ぷらなどなど、宮崎にはまだまだ食べるべきものがたくさんある。スーツケースを空にして、そして体調を整えて再訪しよう誓うのであった。

前編 ”日本のひなた”MIYAZAKI ガストロノミックツアー 宮崎牛編へ

Text by Aya Hasegawa