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日本各地の豊かな自然やその土地固有の多様な文化や伝統に触れれば、大人の知的好奇心を満たす旅があなたを待っている。2024年におすすめしたい日本旅は、都心では体験できない "特別で忘れられない極上時間" を楽しめる場所。そんなサイトスペシフィックなディスティネーションを厳選してお届けする。

北海道の白老町・ポロト湖畔に佇むのは、とんがり屋根の湯小屋がアイコニックな「界 ポロト」。世界的にも珍しい太古の植物由来の有機物を含有した「モール温泉」を楽しめる温泉宿だ。全国23施設に展開する星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」の21軒目として、2022年に誕生した。

ポロトとはアイヌ語で「大きな沼」を意味し、周囲を取り囲む原始の天然林(ポロトの森)には、白樺やカエデをはじめ直径1メートルを超える天然のミズナラの巨木も生育するほか、エゾシカ、キタキツネ、エゾモモンガなどの動物、アカゲラ、オオルリなど約80種の野鳥が生息し、さらにその森の向こうには樽前山を見渡すことができる。全ての客室は湖に面しており、四季折々、一日の移ろいの中で刻一刻と変化する美しい景色が眺められる。滞在中は、まるでポロト湖に包まれているような一体感と、自然との調和やさまざまな動植物と共生してきた、アイヌ民族の自然観に触れることができる。

ポロト湖の美景を臨む全室レイクビューsen

建物の設計は建築家 中村拓志氏が担当し、「アイヌ文化を尊重し、異なる民族との共生を体験できること」をコンセプトに、館内の至るところにアイヌ民族固有のエッセンスが散りばめられている。
fukui_01ph01(写真)チェックイン後はトラベルライブラリーで、湖を眺めながらウェルカムドリンクのハーブティーを楽しめる。棚にはアイヌ民族にまつわる書籍や北海道の食文化についての本が並び、自由に手に取ることができる。

界ブランドの共通点でもあるのが、地域らしさあふれる「ご当地部屋」だ。「界 ポロト」では、アイヌ民族の伝統的住居チセ(アイヌ民族の家)から着想を得た4タイプの「□の間(しかくのま)」がある。室内には、チセの中心にあった四角い「炉」をイメージしたテーブルやアート作品、壁やリネンなどにはアイヌ文様が設えられている。
fukui_01ph01fukui_01ph01(写真)ご当地部屋「□の間」。アイヌ文様が施されたオールなどが設えられた落ち着きのある空間。窓際のソファでは眼前に広がるポロト湖の美しい景色を眺めながらくつろげる。

世界的にも珍しい北海道・白老のモール温泉で"うるはし現代湯治"を体感sen
fukui_01ph01(写真)「△の湯(さんかくのゆ)」は、湖との一体感を楽しめる開放感抜群のインフィニティ露天風呂。

界ブランドのホテルに滞在して最も楽しみなのが、いわずもがな温泉だ。北海道には大自然を背景に、大小さまざまな温泉地が点在しており、お湯の種類(泉質)もさまざまで、湧き出る湯量も豊富だ。「界 ポロト」の白老温泉は、天然植物由来の腐植質の有機物由来の独特な茶褐色の湯が特徴で、皮膚の再生を促進させる働きがあるフミン酸や、皮膚のコンディショニング作用のあるフルボ酸を含み、それらの成分が化粧品にも配合されることから"美肌の湯”ともいわれている。
fukui_01ph01(写真)湯小屋は「ケトゥンニ」と呼ばれるアイヌ民族の建築様式。アイヌ民族は焚火の煙抜きや明りとりにしていた。

「界 ポロト」には2つの湯小屋がある。湖上と一体化したインフィニティ露天風呂の「△湯(さんかくのゆ)」は、アイヌ民族が熊追いや鮭待ちの時に山中でビバークするためのクチャ(仮小屋)をモチーフに、道産材のトドマツの丸太を三角組みしたアイヌ建築の「ケトゥンニ」でできている。開放感抜群のインフィニティ露天風呂は、ぜひ陽の光が煌めく湖畔が美しい明るいうちから楽しみたい。もう一つの湯小屋「〇湯(まるのゆ)」は、洞窟の中や地中の中にいるかのような瞑想的な空間。大地から湧き上がるモール温泉をよりじっくりと体感できる設計になっている。対照的な2つの湯浴みをそれぞれ楽しみたい。

FD_02(写真)「界 ポロト」の湯守りによる「温泉いろは」の様子。
界の湯めぐりで温泉の本質を知る・体験する
"うるはし現代湯治"


温泉旅館ブランド「界」では、全施設で各地の泉質や効能に基づいて、現代人のライフスタイルにフィットするよう、1泊2日でも湯治体験が可能な「うるはし現代湯治」を提供している。知っているようで、あまり知らなかった泉質に関する知識や入浴方法について、各施設にいる「湯守り」が案内人となってレクチャーしてくれる「温泉いろは」や、全国各地にある界の湯めぐりが楽しくなる「お湯印帳」、「湯守りこだわりドリンク」などさまざまなプログラムが用意されている。

アイヌ民族がもつ独自の自然観に触れるご当地楽senfukui_01ph01 界ブランドのおもてなしの一つで、その土地固有の文化を体験する「ご当地楽」。白老町は古くからアイヌ民族が暮らし、現在もアイヌ民族の人々が多く住む町だ。また現在は、2020年に開業した「ウポポイ(民族共生象徴空間)」も隣接し、アイヌ文化と歴史を継承する拠点になっている。そんな「界 ポロト」のご当地楽では、アイヌ民族固有の世界観、自然観に触れる体験が用意されている。場所はロビーにある暖炉だが、アイヌ民族が炉の火を囲んで憩い、火の神(アペフチ)を最も尊い神として信仰してきたことに通じている。

 「イケマと花香の魔除けづくり」 
fukui_01ph01(写真)「イケマと花香の魔除けづくり」体験の模様。スタッフが素材や作り方について丁寧に教えてくれる。

自然界すべての物に魂が宿ると考え、自然と共生してきたアイヌ民族にとって、悪いものを遠ざける植物とされてきたのが、土のような独特な香りがする「イケマ」という植物だ。ワークショップ体験では、「イケマ」と数種類のハーブを、アイヌ文様の記された袋で包んでお守りを作る。イケマの根っこの部分を乾燥させた破片を使うのだが、これは界のスタッフが実際に白老・荻野林道の奥地で収穫してきたものだ。アイヌ民族はこれを魔除けとして日常的に身に着けていたという。ベッドサイドに置いておくと悪い夢を見なくなるとも言われているのだそう。

 「アイヌ伝統歌『ウポポ』を奏でるひととき」・「コタンの宵の集い」 
fukui_01ph01(写真)左:「コタンの宵の集い」 右:手業のひととき「アイヌ伝統歌『ウポポ』を奏でるひととき」高橋志保子さん。

日が暮れるとラウンジの雰囲気は一変し、暖炉のやわらかな炎によって和みの空間へ。夕刻以後ここで開かれるご当地文化体験が、「手業のひととき」の「アイヌ伝統歌『ウポポ』を奏でるひととき」、そして「コタンの宵の集い」だ。「アイヌ伝統歌『ウポポ』を奏でるひととき」は、アイヌ文化の伝承者である高橋志保子さんから、アイヌ民族で受け継がれてきた歌「ウポポ」を教わることができる。アイヌ民族は長い間、途切れることなく口承文芸によって伝統文化を語り継いできた。その独特の節回しやメロディー、リズムには、アイヌ民族の精神が宿り、自然や神にまつわる畏敬の念が込められている。耳で聞き、感じ、そして表現する。すべては即興だが、旅は道連れ、暖炉を囲みながら参加者同士の交流も楽しみたい。

「コタンの宵の集い」は、ご当地ならではのお酒やおつまみが楽しめるアクティビティだ。用意されたのは鹿児島市の本坊酒造のマルスウイスキーと国文北海道が共同開発した道内限定販売のウィスキー「岳樺(ダケカンバ)」、ニセコ蒸留所のボタニカルジン「ohoro(オホロ)ジン」、北海道産ナイアガラを100%使用したオレンジワイン「MAOI ナイアガラ・アンバー」で、いずれも北海道ならではの逸品だ。(※お酒以外のノンアルコールドリンクもある)アイヌ民族にとってもお酒は神聖なものとして扱われてきたが、スタッフが暖炉の火に盃を捧げる様はまるで儀式のようで、いつも以上にお酒の造り手、そして自然の恵みに感謝の気持ちを感じながらいただくことができた。こうして火を囲みながらいただくお酒の味わいは、ひと味もふた味も違うようで、旅の宵をより一層思い出深いものにしてくれた。

白老町・ポロト湖でアイヌ文化の精神に触れる「界 ポロト」Vol.2へ

information


fukui_01info界 ポロト

所在地:北海道白老郡白老町若草町1-1018-94
Tel:050-3134-8092(9:30~18 :00)
客室数:42室
アクセス:新千歳空港から車で約40分、札幌から車で約65分

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