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そのレストランに行きたい、そのシェフの料理が食べたいから、わざわざ地方に出向く──。そんなレストランを指す“デスティネーションレストラン”という言葉は、ここ何年かで、すっかり一般化した感がある。その土地ならではの食材で作る唯一無二の一皿を体感するために(時にはそれだけのために)、遠出をいとわないフーディー、そして、その価値のある店は決して少なくない。

そんな中、富士五湖のなかでも、山深く奥まった場所にある山梨県西湖のほとりに、6月1日(土)、富士北麓の食の拠点となる複合型レストラン「Restaurant SAI 燊(レストランサイ)」がオープン。オープンに先駆けたプレビューに出かけたが、これが高速で店に近づくに連れ、ぐんぐんと高まっていた期待のさらに上を行く、素敵なレストランだった。
fukui_01ph01fukui_01ph01SAIというネーミングは⻄湖から。漢字には⽕や薪を意味する「燊」という漢字を使用した、同店がコンセプトに掲げるのは、「奥・山梨料理」だ。シェフを務めるのは、「ゴ・エ・ミヨ」3年連続受賞、2023年度農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」を受賞した豊島雅也さん。⿅⾁を中⼼としたジビエ、⼭梨県内で⽣産されるブランド⽜や鶏⾁、畑で育てられる⾼原野菜や四季折々の葉物野菜。湖や河川に⽣育するヒメマスなどの淡⽔⿂、スッポンなどを、「最先端の技術ではなく、食べることは生きることそものもであることを思い出すような、プリミティブな調理法」(豊島氏)で仕上げる。さらに、今後はシェフやレストランスタッフ⾃らが、狩猟や採集、養蜂などに携わったものも使⽤していく予定なのだとか。

料理は全8 品前後のシェフの本⽇のお任せコースのみ。18時からの一斉スタートとなる。メインダイニングには、中央に国産のサワラ、ナラ、クルミ、ニレ、セコイヤをランダムに張り合わせて制作した大テーブルをゲスト全員で囲むスタイル。メインダイニングに隣接する個室ももうけた。 fukui_01ph01 「命をいただくのだから、美味しく、そしてできる限り使い尽くしたい」と語る豊島シェフの料理は、フレンチがベースだが、和のスタイルを積極的に導入するなど、既成の概念にとらわれない。薪火を中心に火力を操りながら、富士北麓の食材がもつ味わいを引き出していくのが信条だ。
fukui_01ph01fukui_01ph01 プレビューで食した、メニューの一部を紹介しよう。新タマネギを使ったスープは、一度、凍らせ、溶かす時に少しだけクリームを加えたもの。豊島シェフは、「94パーセントは新タマネギで出きているスープです。新タマネギを丸ごとひとつ召し上がっていくようなイメージです」と笑顔を見せる。肉料理の主役となるのは県内各所の猟師から仕入れたジビエだ。今回は、春先に捕れた鹿がお目見えした。冬の期間、あまり食事をしていない春先の鹿は、「比較的さっぱりしているので、キノコをクリームで焚いたソースを合わせました。“鹿のいる森”のイメージで、シラカバの樹液を煮詰めたものを赤ワインとあわせたソースや、富⼠北麓で採れた筍を乳酸発酵させたメンマなども添えています」。
fukui_01ph01 ペアリングには、山梨ワインだけでなく、県産の日本酒、クラフトジン、クラフトビールなどの多彩なお酒を用意。ノンアルコールペアリングにも力を入れており、果実、樹⽊、根、⼟といったワインで意識されるエレメントを取り⼊れた、オリジナルドリンクやお茶も提供する。 fukui_01ph01

⻄湖湖畔に佇む既存の建物をリノベーションした店舗のデザインコンセプトは、料理にも通じる「⽊・⽕・⼟・⾦・⽔」がベースとなっている。地域の「⽊」材や「⼟」を積極的に取り⼊れ、地元の素材や作家とともに造りあげていった。エントランスドアの引き⼿には、県内在住のアーティストYAMEMI⽒による⿇縄を編み込んだ⿅の⾓を使用。⾓は狩猟も⾏うレストランスタッフ⾃ら仕留めたものなのだとか。「Restaurant SAI 燊」での食体験は、命の気配を握ることから始まるのだ。
fukui_01ph01 ⾃然の素材をより体で感じてほしいという思いから、店内は靴を脱いであがるスタイルを踏襲。足裏に、檜のフローリングが⼼地よく触れる。⼭梨県内の窯「窯⼋」、笠間焼の作家Keicondo⽒の⼤⽫、能登を代表する漆器作家⾚⽊明登⽒のお椀など、料理を彩る器にも注目したい。

料飲はもちろん、ありとあらゆる角度から、西湖の、山梨県の畑、森、湖、⼭からの恵みを、体感する「Restaurant SAI 燊」。季節ごとに訪れたい、魅力的なデスティネーションレストランがまたひとつ誕生した。

text by Aya Hasegawa

information


fukui_01infoRestaurant SAI 燊(レストラン サイ)

所在地:⼭梨県南都留郡富⼠河⼝湖町⻄湖208-1
営業時間:17:30ドアオープン、18:00 スタート。完全予約制
定休⽇:⽇・⽉曜⽇
コース料⾦: 20,000円
※メニューや⾷材は季節や仕⼊れ状況によって異なる
ドリンクペアリング:「⺡⾣」(しゅ) アルコール 6,000円・10,000円、「⺡⼭」(さん) ノンアルコール 10,000円
予約先:https://www.tablecheck.com/shops/restaurant-sai/reserve