2025年の夏、スコッチウイスキーを代表する2つの蒸留所、「グレンモーレンジィ」と「アードベッグ」の最高蒸留・製造責任者を務めるビル・ラムズデン博士が来日した。今回、ラムズデン博士による「グレンモーレンジィ」と「アードベッグ」「サーデイヴィス」のテイスティングセミナーの様子をレポートしたい。

(写真トップ)テイスティングセミナーでは、「サーデイヴィス」や「アードベッグ 25年」、「グレンモーレンジィ シグネットリザーブ」、「グレンモーレンジィ 23年 by Azuma Makoto」のほか、「グレンモーレジンィ」の貴重なバックヴィンテージのボトルも提供された。

伝統に革新を。新しいシングルモルトの時代を切り拓く、ビル・ラムズデン博士。sen

まず、ウェルカムドリンクとして供されたのは2024年8月より販売開始された「グレンモーレンジィ オリジナル 12年」。実は、ラムズデン博士は、グレンモーレンジィ蒸留所から、「グレンモーレンジィ オリジナル 10年」のレシピ見直しを長年、相談されていたという。

その結果、生まれたのがこの「12年」だ。従来の「10年」と比べるとクリーミーさが増したのが特徴だ。今回、ハイボールでいただいたが、弾ける泡とともにその豊かな香りが立ち上るのが印象的だった。

(写真)ラムズデン博士は、シングルモルト業界で“世界最高のクリエイター”として名高い人物。生化学の博士号を持ち、長年ウイスキーづくりに携わってきた経験と芸術的なセンスで、数多くの名作を生み出してきた。

次に試飲したのが「グレンモーレンジィ 23年 by Azuma Makoto」。こちらは、2024年9月に発売された、フラワーアーティストの東 信氏とのコラボレーション第2弾。2021年に限定エディションとして発売された「グレンモーレンジィ 18年 LIMITED EDITION BY AZUMA MAKOTO」。このプロジェクトを通じて、ラムズデン博士と東氏との間では深い信頼関係が生まれたという。

「前回はオンラインでのミーティングでした。でも今回は、東さんに蒸留所まで来ていただき、実際に見学もしていただき、現地で体験したことを、日本に持ち帰っていただき新たな作品を作っていただきました」とラムズデン博士は語る。

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(写真)この限定ボトルは「森羅万象」と題され、植物が幾重にも咲き誇る円筒形のギフトボックスに収められている。グレンモーレンジィとして初となる、ブルゴーニュ・ムルソーで生産されたシャルドネ種の白ワイン樽で仕上げたウイスキーとブレンド。

そして、“コーヒーとチョコレートの風味を持つウイスキーを造りたい”という発想から生まれたのが「グレンモーレンジィ シグネットリザーブ」。最初のアイディアから実に25年をかけて、商品化にたどり着いたそうだ。

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本作では、ラムズデン博士は、「チョコレートモルト」という大麦麦芽を使用している。これは、特別に強く焙煎された大麦麦芽で、そこから生まれるロースト香がコーヒーやチョコレートのニュアンスをウイスキーに与えてくれるのだ。今回はシェリー樽で2年追加熟成をさせて仕上げた。

「このシグネットにはさまざまなバリエーションが生まれています。通常のシグネットがエスプレッソマキアートだとすると、今回のシグネットリザーブはカプチーノのようなイメージです」とラムズデン博士は解説する。

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次に、「アードベッグ 25年」。アードベッグの定番アイテムの中でもトップに位置付けられる製品だ。こちらは、2000年代に販売された「アードベッグ ロード オブ ジ アイルズ 25年」のレシピを再現しているという。アードベッグといえば、強いピート香が特徴で、個性的な限定アイテムが毎年出る中で、本作は、エレガントなスモーキーさを持っている。

そして、最後にテイスティングしたのが、ラムズデン博士と世界的歌手のビヨンセ氏とが共同で開発したアメリカンウイスキーの「サーデイヴィス」だ。

大のウイスキー好きであるビヨンセ氏にとって、自身のウイスキーブランドを持つことが叶えたい夢の一つだったという。彼女からの相談を受けて、ラムズデン博士は共にテイスティングを重ね、どのような味わいを目指すか方向性を決めていった。

日本のウイスキー、特に「山崎」が好みだというビヨンセがたどり着いたスタイルというのが、甘さや香ばしさ、そしてまろやかさだったという。そうして生まれたのが、ライ麦51%、大麦麦芽49%というブレンド比率。こうして、テキサス生まれのアメリカンウイスキーが誕生したのだ。

なお、「サーデイヴィス」というブランド名は、ビヨンセ氏の曾祖父にあたるデイヴィス・ホーグにちなんだもの。ラムズデン博士は通常、46度を推奨しているそうだが、今回は、ビヨンセ氏のラッキーナンバーに由来して44%というアルコール度数が選ばれた。

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長い歴史を積み重ねてきたウイスキー造り。伝統を重んじながらも、革新的なアイディアを常に持ち続け、新しい味わいを追求していくラムズデン博士。今後、どのような新しいウイスキーを創り出していくのか、楽しみだ。

■グレンモーレジンィ https://www.mhdkk.com/brands/glenmorangie/sp
■アードベッグ https://www.mhdkk.com/brands/ardbeg
■サーデイヴィス https://www.sirdavis.com/ja

取材・文/田上雅人