1971年の創業以来、正統派広東料理の名店として多くの美食家に愛されてきた「楼蘭」。コロナ禍による閉店から2年以上の時を経て、2023年に「銀座楼蘭」として華麗なる復活を遂げた。これは店を惜しむ常連客の声と、伝統の味を守り続けてきたシェフやスタッフの想いが結実したものだ。この秋、そんな「銀座楼蘭」に新しいディナーコース「凜~りん~」が登場した。

愛され続ける名店の再生──次代へと伝統をつなぐ”銀座楼蘭”の物語。sen

「銀座楼蘭」の前身となる「楼蘭」は、1971年に品川駅前の「ホテルパシフィック東京」(現在は閉館)内に開業した。ふかひれなどの高級食材を使った本格広東料理の名店として多くの美食家に親しまれてきた。1982年には銀座コアビルに移転し、「銀座楼蘭」としてその名を広めたが、コロナ禍の影響により2021年に惜しまれつつ閉店。長年にわたり人々に愛された名店の灯は、一度その幕を下ろした。

そんな中、子どもの頃から家族とともに「楼蘭」に通っていた現オーナー江連氏が、その味と空間を未来に残したいと再生を決意。かつての料理人や創業当時のスタッフたちにも声をかけ、1年半の準備期間を経て、銀座の中心「GINZA gCUBE」10階に新たなステージを構えた。「おひとりでも、お仲間でも、何度訪れても心に寄り添える料理を」という信念のもと、広東料理の伝統に現代的な軽やかさを加えた料理が揃う。
(写真)左/イタリアから取り寄せたモダンデザインのタイルが印象的なウエイティングバー。右/京都の職人による特注作品は、縁起のよい金銀箔の裂を用いたもの。

店内は随所に、オーナーの美意識とこだわりが息づいている。エレベーターを降りた瞬間から非日常の世界が広がり、京都の職人による金銀箔の特注アートがゲストを迎える。奥にはイタリア製タイルが彩るカウンターとウエイティングバーを併設し、一人でも気兼ねなく食事やお酒を楽しめる空間だ。モダンでありながら気品を湛えた佇まいが、銀座の夜を優雅に演出する。

秋の味覚を贅沢に堪能──新ディナーコース「凜~りん~」。sen

伝統的な広東料理の技法を受け継ぎながら、油の使用は最小限にとどめ、旬の素材が持つ旨味をシンプルかつ繊細に引き出すのが「銀座楼蘭」の流儀だ。ふかひれ、鮑、北京ダックといった高級食材を巧みに取り入れ、華やかでありながら軽やかな味わいに仕立てている。新たに登場した秋のディナーコース「凜~りん~」は、創業当時から店を支え続けてきた料理長が一皿ごとに趣向を凝らし、秋の味覚と伝統中国料理の粋を融合させた特別なコースだ。※ディナーコースだが、ランチでも提供可能。

pullman_01
(写真)左/コースの幕開けを飾る「命のスープ」。右/個室料金不要で利用できる個室は、銀座エリアでも貴重な空間。

pullman_01
(写真)5時間以上かけて丁寧に仕上げたスープで味わう「ふかひれの姿煮」。

初めに運ばれてきたのは「命のスープ」。ふかひれの出汁を取るシャンタンスープをベースにした、滋味深い味わいのコンソメだ。濃厚でありながらも澄んだ旨味が広がり、まさにコースの幕開けにふさわしい一品。続く「鮑入り前菜盛り合わせ」には、ねぎと生姜の塩水に漬け込み、蒸籠でじっくり1時間蒸し上げた鮑が登場。ソースを添えずとも柔らかく、素材の旨味が際立つ。さらに、常連客に愛されてきた窯焼きチャーシューや、ズワイガニともずくのジュレ寄せ、マッシュルーム豆腐など、いずれも丁寧な手仕事が光る。季節の野菜や旬の食材を生かした一品一品から、素材を大切にする店の哲学が感じられる。「ふかひれの姿煮」には、出荷量の少ない貴重な気仙沼産ふかひれを使用。ソースは冒頭の「命のスープ」をベースに金華ハムを加えたもので、ふかひれは蒸籠で蒸し上げてからソースをかけるという広東の伝統的手法で仕立てられている。煮込むのではなく、蒸すことでふかひれ本来の食感と風味を生かした贅沢な一皿だ。

pullman_01
(写真)左/店の看板料理でもある「北京ダック」。右/シーズナルメニューとして登場後、好評を受けて今秋からレギュラーメニューとなった「抹茶紹興酒ハイボール」。

「北京ダック」は、薄い包餅に鴨の皮、葱、自家製甜麵醤を添えて巻いていただくという王道の組み合わせ。余計なものを加えず、素材の美味しさを研ぎ澄ませたシンプルさが、むしろその完成度の高さを際立たせている。香ばしく焼き上げた鴨の皮と、深みのある甜麵醤の旨味が見事に調和し、同店の看板にふさわしい逸品だ。ともに楽しみたいのが「抹茶紹興酒ハイボール」。紹興酒に上質な抹茶を合わせ、ソーダで割ったオリジナルカクテルで、爽やかさと深みを兼ね備えた味わいが印象的。抹茶のまろやかさが紹興酒の芳醇な香りを包み込み、北京ダックとの相性も抜群だ。


(写真)肉厚の特大シイタケを器に見立てたメインディッシュ「帆立と大海老、特大シイタケのXO醤蒸し」。

(写真)左/旬の野菜の旨味を存分に味わえる「五種彩り野菜の炒め」。右/ふわりとした蒸しパンで和牛を挟んだ、中華風バーガーのような新感覚の一皿「国産和牛の蒸しパンサンド オニオンソース」。

メインディッシュの「帆立と大海老、特大シイタケのXO醤蒸し」は、肉厚の特大シイタケを器に見立て、帆立と大海老を贅沢に盛り付けた一皿。帆立は半生に仕上げ、大海老はダイナミックに蒸し上げている。自家製XO醤の深い旨味が海鮮の甘みを引き立て、出汁を吸ったシイタケの味わいが格別だ。 続く「五種彩り野菜の炒め」は、ブロッコリー、さつまいも、だいこくしめじ、紅芯大根、まこもだけなど旬の野菜を使った一皿。もとは付け合わせだったが、評判の高さから独立した人気メニューとなった。高温の油と水でさっと火を入れる“うわい”という広東の技法で、野菜の食感と旨味を閉じ込めている。そして「国産和牛の蒸しパンサンド オニオンソース」は、茨城県産の和牛を自家製蒸しパンでサンド。イーストではなく老麺で発酵させたふわりとした生地に、オニオンソースが溶け合う。

pullman_01
(写真)左/「薬味入りつゆそば」。右/本日のデザート。

締めは、別名「光麺」と呼ばれる「薬味入りつゆそば」。鶏と豚ガラをベースにした澄んだスープに、葱だけを添えたシンプルな一杯だ。こってりとせず、さらりとした醤油味が締めに心地よく、これだけを目当てに訪れるゲストもいるという、同店自慢の裏メニュー。この日のデザートは、「季節のフルーツの杏仁豆腐」。創業から40年以上受け継がれる「楼蘭」伝統の味を、店内の点心師が一つひとつ手作りしている。旬のシャインマスカットやイチジク、ザクロをあしらい、上品な甘さと果実の瑞々しさが広がる。長い歴史の中で磨かれてきた、変わらぬ味わいが締めくくりにふさわしい。

アラカルトで味わう、“カウアイの宝石”──唯一無二のチリソース煮。sen
salvatore_cuomo13(写真)濃厚な海老味噌の旨味とぷりっとした食感が魅力の「カウアイシュリンプのチリソース煮」。

今回の新ディナーコース「凜~りん~」には含まれないが、同店のアラカルトメニューも見逃せない。中でもおすすめは「カウアイシュリンプのチリソース煮」だ。聞きなれない名前のこの海老は、自然豊かなハワイ・カウアイ島で育まれたバナメイエビで、“カウアイの宝石”とも呼ばれる希少な存在。ハワイから直輸入される新鮮な海老を頭付きのまま揚げ、濃厚なチリソースで煮込んでいる。海老味噌のコクと甘辛いソースが絶妙に溶け合い、深い旨味を引き出している。紹興酒との相性も抜群で、ほかでは味わえない一皿だ。

「銀座楼蘭」を訪れれば、なぜこの店が長年にわたり人々に愛され続けてきたのかがすぐにわかるだろう。コロナ禍は多くの名店にとって試練の時だったが、真に愛される店は、ゲスト、スタッフ、料理人の想いによって再び灯をともす。「楼蘭」の再生は、名店の真価が時を超えて不朽であることを静かに証明している。

photo by Masakatsu Ikeda

information


銀座 楼蘭
所在地:東京都中央区銀座7-9-15 gCUBE10F
Tel:03-6228-5971
営業時間:火曜~日曜 11:30~22:00 (LO 21:00)
定休日:不定休
秋の新ディナーコース「凛~りん~」 23,000円(全8品)
取材協力:株式会社ジャパンダイニング