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近年、イギリス発のスパークリングワインに注目が集まっている。著名なワイン評論家ジャンシス・ロビンソンが「イギリスはシャンパーニュに負けない産地だ」と発言したこともあり、多くのワインコンクールで受賞が相次ぐイギリスのスパークリングワインは世界中で話題に上ることが多いのだ。

今回その注目のイギリスのスパークリングワインを試しに訪れたのが「Black Chalk(ブラックチョーク)」だ。ロンドンの南西約90キロ。イギリスらしく雨、晴れ、曇りが目まぐるしく変わる天気の中、田園風景が美しいハンプシャー州にある「ブラックチョーク」についた時、ワイナリーには陽光が降り注いでいた。



「シャンパーニュに負けない産地」──いま、イギリス・スパークリングが世界を惹きつける理由

aburuzzo3_ph12案内してくれたのはアシスタント・ワインメーカーのアンディ・ワイルズ。イギリス国内でワイナリーの現場を経験したのち、2024年から「ブラックチョーク」の醸造チームに加わった。「ブラックチョークは2015年にCEO兼ワインメーカーであるジェイコブ・レドリーが始めたプロジェクトです。それまでイギリスは冷涼な気候ゆえにワイン作りには不向きとされてきましたが、近年はワイン作りが非常に盛んです。ジェイコブもその一人で従来の既成概念を覆すことに挑戦しはじめたのです」。

アンディに案内されて合計12ヘクタールあるブドウ畑を案内してもらう。シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、テスト川へと続く緩やかな丘陵地帯はイギリスの典型的な牧草地帯とは異なり、フランスのワイナリーを思わせる風景が広がっていた。チョークとは石灰の意味だがこれはイギリス南部特有の土壌に由来する。ドーバー海峡を挟んでシャンパーニュ地方へと続く白亜質(チョーク質)の土壌は大量の火打ち石を含み、水はけがよくミネラルが豊富。シャンパーニュと同じブドウ品種であるシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエの栽培に適している。
「イギリス人は元々シャンパーニュ好きで特にブラン・ド・ブランを好む傾向にあります。イギリス産のスパークリングワインは長い間イギリス人の悲願だったのです」とアンディ。「ブラックチョーク」では毎年ブドウの生育に合わせて収穫時期を調整し、どの品種のクローンが最良かをジェイコブを中心としたチームで話し合って決める。ステンレスタンクと時にはフレンチオークのバリックで醸造が行われたのちにアッセンブラージュし、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵が行われる。デゴルジュマン、ドサージュ、ネックフリーザーも機械化が導入されており、可能な限り補糖ゼロを目指したいとアンディは語る。
aburuzzo3_ph01 テイスティングルームに移動し、アンディの案内で2種類をテイスティング。まずは「Classic 2022」。これはピノ・ノワール46%、シャルドネ42%、ピノ・ムニエ12%から作られるシャープな切れ味の辛口スパークリング。澱引き後に最低22ヶ月間熟成させデゴルジュマン後に瓶内熟成6ケ月。フレッシュな酸味と凝縮された果実味が心地よい。食前だけでなく食中酒としてもよい。もう一種類のロゼは「Wild Rose 2022」ロゼではなくイギリスのシンボルである「ワイルドローズ」というネーミングにも気概を感じる。ピノ・ノワール 57%、ピノ・ムニエ 36%、シャルドネ 7%。繊細な色彩に上品かつ複雑なニュアンスで、ワイルドベリーやレッドカラントなど芳醇な赤い果実を感じる。これもまた魚介料理など料理にあいそうなワイン。
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アンディとテイスティングしていると、サイクリング中のイギリス人男性2人が試飲に訪れた。見れば同じく2種のスパークリングワインを美味しそうに試飲。アンディがいうように、イギリス人はスパークリングワイン好きでありサイクリング中でもワインを楽しんでみたいようだ。「ブラックチョーク」は今度レストランも拡張してワインツーリズムにも積極的に取り組むプロジェクトがある。上質なスパークリングワイン片手に爽やかなイギリスの夏を過ごす、来年はそんな旅がよさそうだ。

BLACK CHALK – CLASSIC クラシック2022

「Classic 2022」は、ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエをバランスよくブレンドした一本。冷涼な気候がもたらす高い酸と、果実のピュアな輪郭が共存し、クリスプで引き締まった味わいが印象的。熟成による奥行きを備えながらも、透明感のあるフィニッシュへと導かれる。 牡蠣や甲殻類といったシーフードはもちろん、軽やかな前菜から食中酒としても寄り添う、英国スパークリングの現在地を体現するスタイル。

INFO:
イングリッシュ・スパークリングワイン
品種:ピノ・ノワール46%、シャルドネ42%、ピノ・ムニエ12%
アルコール度数:12%/澱とともに22か月以上熟成




BLACK CHALK – WILD ROSE ワイルドローズ2021

aburuzzo3_ph01 「Wild Rose 2022」は、ピノ・ノワール主体にシャルドネとピノ・ムニエをブレンドしたロゼ・スパークリング。赤系果実の繊細なアロマに、冷涼なイングランドならではの張りのある酸が重なり、ドライで洗練された味わいに仕上がっている。果実味はあくまでピュアで、きめ細かな泡が全体を引き締め、余韻にはほのかなスパイス感とミネラルが残る。 サーモンやマグロ、鴨肉、エスニックなスパイス料理まで幅広く寄り添い、食卓に軽やかな緊張感をもたらす一本。

INFO:
イングリッシュ・スパークリングワイン
品種:ピノ・ノワール 57%、ピノ・ムニエ 36%、 シャルドネ 7%
アルコール度数:12%




BLACK CHALK – INVERSION 2020 インバージョン 2020

aburuzzo3_ph01 「Inversion 2020」は、ピノ・ノワール主体で造られる、ブラック・チョークの中でも特に個性が際立つスパークリング。冷涼なハンプシャーの気候と、年によって生まれる“逆転層(インヴァージョン)”と呼ばれる自然条件が、果実に凝縮感と張りのある酸をもたらしている。赤系果実のニュアンスに、トーストやナッツを思わせる熟成香が重なり、力強さと緻密さを併せ持つ味わい。 シャープな骨格と長い余韻が印象的で、シンプルな前菜からロースト料理まで対応する、食事との相性を意識した英国スパークリングの進化形といえる一本。

INFO:
イングリッシュ・スパークリングワイン
ヴィンテージ:2020年
品種:ピノ・ノワール83%、ピノ・ムニエ17%
アルコール度数:12.5%

profile


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池田匡克
ジャーナリスト/イタリア国立ジャーナリスト協会会員

1967年東京生まれ。1998年よりイタリア、フィレンツェ在住。イタリア料理文化に造詣が深く、イタリア語を駆使してシェフ・インタビュー、料理撮影、執筆活動を行う。著書に『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』『シチリア美食の王国へ』『イタリアの老舗料理店』『世界一のレストラン オステリア・フランチェスカーナ』など多数。2014年イタリアで行われた国際料理コンテスト「ジロトンノ」「クスクス・フェスタ」などに唯一の日本人審査員として参加。2017年イタリア料理文化の普及に貢献したジャーナリストに贈られる「レポーター・デル・グスト」受賞。2023年、日本全国の北海道から沖縄まで100店の高級イタリア料理店が参加する大型レストランイベント「ITALIAN WEEK 100」のディレクターに就任。
information


fukui_01ph01Black Chalk Vineyard & Winery

所在地:Fullerton Rd, Andover SP11 7JX, UK
Tel: 01264 860440
Instagram:instagram.com/blackchalkwine/
Facebook:www.facebook.com/Blackchalkwine/
X:https://x.com/blackchalkwine